投稿詩 on PQs! - 第7ラウンド-
7月5日開始〜7月12日零時〆切です。(投稿順・タイトルをクリック!)
「虹」 / 「私と詩」 /「家がない」 /「Mr.田中氏」 /
「蟹」 /「繊細な」 / 「きゃくはちめはち」 / 「この夏いちばん静かな夜」 /
「こえ」 /「生物ぶつぶつ死骸かずかず、化学はがくがく爆破うずうず」 / 「いつまで」 / ポエムになりたい /
第7ラウンドへの投稿は以上の14作品でした。
ありがとうございました。
第7ラウンドバトル成績速報!
21点 アリア 「生物ぶつぶつ死骸かずかず、化学はがくがく爆破うずうず」
21点 にゃんしー 「家がない」
20点 ことこ 「はるか」
20点 葉桜彰 「いつまで」
20点 モリマサ公 「虹」
19点 5or6 「蟹」
18点 翠蓮ツバサ 「Mr.田中氏」
18点 田村飛鳥 「この夏いちばん静かな夜」
17点 待子あかね 「こえ」
16点 まりっこ 「きゃくはちめはち」
15点 やや 「繊細な」
15点 うめぜき 「ポエムになりたい 」
12点 ハジメシンパチ 「Blue」
11点 ∞ 「私と詩」
審査員コメントと得点分布
ポエムになりたい
もしも
僕の声を宝箱の中にしまって置いたなら
時々は空気に触れさせてあげて欲しいんだよ
多分聞くのも嫌になるような
そんな時もきっとあるのだと思うけれど
もしも
僕の指先の温度をカバンの隅に渦巻かせたままなら
カバンをひっくり返して夏の風に撒いてください
それは僕の指を離れて
死んでしまいそうなぐらい寂しいから
もしも
もしものことなのだけど
僕のシルエットを瞼のどこかに棲まわせてくれたなら
それはきっと言葉になりたがっているから
ポエムにしてあげて
僕は洗練されたポエムになって
君に時々読んで欲しいと、思っているよ
もしも(そう、「もしも。」)
ことばを摘み取って
それは春の風のようなポエムになるのなら
君に届くようにとポエムを書くよ
それが例えば
詩で無かったとしても
いつまで
なめらかに蛇行して
空白を羽音で埋めながら
晴れた日を行く
耳鳴りは一昨日笑った
あごの関節に
風が通るからだけど
両手で塞いでしまうと
ありきたりな海の音に
替わってしまうから
うつむかず
大きく腕を振って
行進して行く
靴紐が
左足ばかりほどけるのは
偶然じゃなかった
履きつぶして
薄汚れたと思った
ちょうちょ結びは
鎌首をもたげ
赤い舌を出して
進む方向とは反対に
ねずみを追いかけて
行ってしまったから
右足に頼りながら
つまづかないように
アスファルトを
踏みしめて行く
歩く道が
草むらでない事を
こんなに悔やんだことは無い
生物ぶつぶつ死骸かずかず、化学はがくがく爆破うずうず
生物の教科書に広がるのは
生命の神秘だけではなく、て
内側の生々しい彩りと腐敗
キメラマウスとクローンヒツジは戦慄
裂かれた蟲が見せる姿のおぞましさに
嫌悪の嘔吐が込みあげる
あの日の授業で
実験用のモルモットが
悲鳴代わりの蛍光を発していたけれど
きっとそのことに気づいたのは私だけだろう
銀のマイクを手にもち熱く語る政治家よりも
無言で訴える写真の方が衝撃を与えるもの
だから脳裏に塩素の水を浸して
酸化作用で色褪せないか試みるのだ
儚く消えた小さな生きものたちの蠢きを
誰かこまごめピペットで優しくとりのぞいてくれないか
丸底フラスコの隅っこで
突然変異したハエの眼球がのこっているから
記憶の上塗りに
液体が反応するときの瞬間を貪る
水に垂らした一滴の絵の具が広がる光景と
美しい点において同じく好きなので
奥処無しく毒のある気体になりたいと思う
すてきな橙色の気体も良いけれど
きれいな赤色の気体も良いけれど
一番はあやしい紫色の気体
そう、刺激臭の棘を纏いつつ
それからそれから誰の誰の
それから誰のもとへゆこう
(けれども教科書の向こう側の世界を私はよく知らない)
こえ
なんにもきこえない
なんにも届かない
おとなんて
ありません
きらきら光る海
みえるのは ただそれだけ
夜空に浮かぶ
ただそれだけ
こえがきこえる
いっとう 大切なこえが
よる 深くまで
こいよるが 届けられる
いつまでも いつでも
ねむり ついても どこまでも
この夏いちばん静かな夜
浴槽の水面に揺れる、アザだらけの膝小僧
慣れない正座に疲れた両足を擦って
ふやけた指先から滴を落として戻す
跳ねる音、響く浴室
いちばん静かな夜
明日は何時に起きるんだっけ
誰と誰が訪ねてきて
誰と誰を車に乗せて
誰と誰に電話をするんだっけ
出ない答えは探していない
いちばん静かな夜
まだ頬が温かい時、布団で横たわる口元から
光が伸びたのを見た
花に囲まれた棺の中で眠る冷たい頬に触れたら
自然に笑ってしまった
骨が重ねられた箱を抱える
また、光が伸びて
たくさんの涙を一緒に連れて行った
いちばん静かな夜
何分の1も知らないけれど
何分の1しか知らないけれど
或いは声を上げながら
或いは喉を鳴らしながら
或いは黙り込んだまま
それぞれの思い出を眺めて
在りし日の姿を偲んで
泣き沈む、この日はとても
とても暑い夏の午後
酌み交わす酒が弾ける食卓を
淡い遺影が見詰めていて
各々が言葉を投げ込みながら
あの日はああだった
あの日はこうだったと
尽きない話で時間を揺らす
明るくて眠れない夜
そして、
骨と記憶に昇華した人のことだけを
ただじっとおもうだけの
今日は
いちばん静かな夜
何分の1も知らないけれど
何分の1しか知らないけれど
どうしてこの心の中に
こんなに深く刻まれているの
それはおそらく
あなたに引かれた掌がとても温かかったから
共有した時間は僅かでも
目を合わせて言葉を交わし
名前を呼んでくれたから
駆け抜けた半世紀強の中に埋まる
痛みや苦しみや幸せを
伝え聞くだけで何も知らないけれど
右手に自由、左手に影
この時代に刻んだあらゆる事実は
間違いとか回り道ではなく
ただひとつひとつの足跡
都会の喧騒も田舎の静寂も部屋の暖かさも友の温もりも
どれも皆ひとつの事柄だ
わたしは何も知らないけれど
両手を合わせて目を閉じる
話すでもなく涙流すでもなく思い巡らすでもない
自然に漏れる笑みはおそらく
いちばん素直な告白のかたちだ
おやすみなさい
今日はとてもとても静かな夜です
みんなもぐっすり眠っているでしょう
おやすみなさい
おやすみなさい
2007年8月14日 おとうさんの遺影の前で泣く
きゃくはちめはち
花が咲きました
無色透明な花びらの真ん中に
黒いめしべが一つ
私はそれが美しいと思ったので
水をあげることもなく
そっとしておきました
次の日
めしべにおしべが寄り添っていました
正確に言えば
めしべがおしべを喰っていました
私はそれが美しいと思ったので
やはり
水をあげることもなく
そっとしておきました
鳥が羽ばたいていった日
めしべは無くなっていました
おしべも無くなっていました
私はその理由を少しだけ考えた後
そっと花に水をやりました
さようなら
またおいで
無色透明な花びらは
涙を彩りながら
崩れていきました
繊細な
綺麗な大きな刺繍の端が
ほつれて綻んで
血管みたいに飛び出た糸が
ボロボロ零れて
直そうとして遠慮がちに触れた
その刺激にすら
糸は容易く
ハラハラ解れる
_とても繊細でとても根気がいるのよ
そう彼女は言った
ほどけた糸を直す方法は?
_切れた糸はほどききってしまわないとね
全てをほどくなんて到底出来なくて
途中までほどいて弾結び
続けて新しい糸を通して
刺繍はほら元通り に見える
_それしかないのよ だって時間は戻せないもの
そう誰かが言った
蟹
ブースから
流れるよう
な蟹
舌の先を挟んで
宙ぶらりになって
ぽたり
落ちるよう
な蟹
横で
横で指が近づく
うごめくよう
な蟹
つついて
口元から
スポットから
泡がはじけるよう
な蟹
這わせて
集まる朱の色
の
口
ど
け
少しずつだけれども
け
ど
しょっぱくて
お腹に響くよう
な蟹
したかった殻
満ち潮で
引き潮で
寄り添う
小箱の中の
波
Blue
思い返してみれば 僕らはいつだって涙を堪えていた
初めての恋に焦がれたとき
言い知れない不安に膝抱えたとき
立ちはだかる現実に打ちのめされたとき
「そんなはずないさ オレは胸を張って笑ってた」
強がっていたあの頃 泣き出すことは許せなかった
僕が僕であるために 僕は僕を偽って
オトナなんて呼ばれた日 僕は泣くこともできない自分に気がついたんだ
出口のない部屋の片隅 膝を抱えて
カーテンの向こうはまだ曇り空 ジャケット一枚じゃ寒すぎる
昨日めくったカレンダー 明日も重ねて捨てていた
誰とも知れない机の上に 刻んだ落書きとメッセージ
繋がらない携帯電話
灰色の雲に覆われた世界で 僕だけが取り残されてる
夕暮れの喧騒に紛れて 僕たちだけが埋もれてく
折りたたんだラブ・レター ろくでもない僕たちが捧げる ろくでもない世界の賛美歌
傷だらけの指で綴った便箋は いったいどんな色してる?
血まみれの赤
消しカスの灰
空白に歪む白
塗り潰した黒
涙に濡れた青
背中合わせに歌った歌は 赤い情熱に乗せて君へ
調子っぱずれな低い声 「素敵だね」 って微笑んでくれた
灰にけぶるバリトン 気難しがりやの神さまだって口ずさんでる
歩き始めはずうっと怖い でも 鼻をすすって立ち止まらず行けるよ
足跡しか残らない道 瓦礫の下の真っ白なスケッチブック
肌寒い夜は終わって 黒真珠の星空 髪を拭いて眠りを待つよ
見上げればほら 雨上がりの空だって悪くない
見透かせばほら 世界はただ 微笑んで 暖かな青に澄んでいる
はるか
うすむらさきの雲の向こうで
夕陽が沈む
水羊羹の表面を
スプーンですくうように
なめらかな冷たさを泳ぐ
身を寄せて口をつぐんだ
紫陽花の花びらが
ひとつ、またひとつ
色褪せては
空へかえる
信号機がぱっぽう、と
くりかえし諳んじて
歩道橋は
ひとの重みにたわむ
みんなきちんと
弁えている
(お前はえらいね、)
(と、そこにはいない野良猫に呟く)
かつて
湖のほとりで生まれたものがあった
腕のうちがわの
いつだってしろい部分が
覚えている
ねむらない夜は
寝返りをうつたびに
短くなる
手のひらと手のひらを重ねれば
汗がにじむ
どこもかしこも、熱い
こぼしたミルクの広がる
歯応えはたしかにあった
反発しあうコロイドの
震動を
からだの中に残したまま
平行線をたどる
どうしようもなく
おたまじゃくしが溢れては泳いでゆく
鼻歌
そうして続けてきたことを
手早くえくぼに埋めて
前庭にちかい場所で
まわり続けている
Mr.田中氏
田中氏は、歩いていました。
ミッチェルと名付けた、ぺたんこの鞄を提げて。
田中氏は、歩いていました。
本日は、晴天なり。
青空は、雲一つ存在させず。
窓ガラスに映った、まあるい背中を正しました。
通りで、猫にすれ違いました。
うっかり、水たまりを踏みました。
見知らぬ猫が、引っかきました。
田中氏は、自分の名前が嫌いでした。
そこで自分を、ジュリアスと呼びました。
もう後戻りはできない
と、呟くのが好きでした。
しかし、そのことは内緒でした。
川を渡ることができない
と、知っていたのです。
通りには、電気屋がありました。
毎日通る、電気屋でした。
たった一つの、電気屋でした。
電気屋には、テレビが一台ありました。
黒塗り、ボックス型。
時代に、乗り遅れました。
拗ねてるのか、意地なのか。
いつも同じ絵を、映すのでした。
逆さまの少年が、大きなヒトミを向けていました。
田中氏はミッチェルから、小さな地球儀を出しました。
小さな小さな、地球儀でした。
こんなに小さな箱庭で
この道のりはどこまでも遠く
私の足では
きっと届かないだろう
せめてもの救いが神なのだとしたら
電波と名付けた箱舟に乗って
彼らの所まで
そして、そして、そして、そして、
そして、そして、
そして、
田中氏は、笑いました。
ガラス越しの、少年に、触れました。
田中氏、は、歩き、ました。
ミッチェ、ルを、揺、さぶ、りながら。
田中、氏、は、歩い、ていまし、た。
途、中走、った、りも、しま、し、た。
壁は壊れたはずなのに
胸はむかついたまま
早くこっちにおいでよ
だれのセリフなのだろう?
お隣さんのコンクリ塀
落書きに犯されて
壊してやろう
と、言いました。
田中氏は、家に着きました。
妻の静が、出迎えました。
田中氏は、二人暮しでした。
子供は、とうに出ていきました。
彼女はふと、怪訝な顔をして。
「あなた、どうして泣いていらっしゃるの?」
田中氏は、笑いました。
田中氏は、笑いました。
「なんでも、ないよ」
と、言いました。
「水を一杯、くれないか」
とも、言いました。
青の抜けた、コップの底に。
田中氏は、自分を見つけました。
彼はふと、怪訝な顔をして。
「ジュリアス、どうして泣いているの?」
ジュリアスは、答えませんでした。
代わりに、手が痛みました。
田中氏は今日も、電気屋の前を通ります。
家がない
チャリにまたがって走る。
この町で一番おおきな川の堤防の上を。
季節の変わり目の複雑な形の雲が
今にも泣きそうな顔をしている。
傘を持ってきてなかった。
しかめっつらで上を向く。
夕暮れ近い太陽の光を受けて
たなびく紫色の空。
川沿いを走るふるえる風に乗って
湿り気を増した土の匂いは肌寒い。
腰にくくりつけたパーカーを肩から
さぶいぼの立った半そでに抜いて落とす。
ぽつり、とひとしずく落ちた。
下を向くと、胸ポケットから携帯電話が落ちた。
拾わずにそのまま、川を望む。
土手下では子供たちが、ベースボールをしていた。
ちょうどそのシーンでは「スクイズ」を失敗したところだった。
ホームを目指した赤銅色の肌のこどもが、
自嘲気味に歯を見せ笑い、
けれども振り返らずにアウトになった。
アウト。
その瞬間、大粒の雨がどっと降り出した。
こどもたちは皆ダグアウトに撤収し、
まばらな観客席に、父兄の方々のカラフルな傘が咲いた。
ほほを伝う雨は、悲しいのか嬉しいのかを分からなくさせる。
足元に落ちた携帯電話がふるえた。
誰からの電話でもない。
誰からも電話なんかきやしない。
ただ、雨に濡れただけだ。
それより大切なことなんか、今は無い。
僕には、家がない。
なんだか力が抜けてしまって、とたんに涙が溢れてきた。
ふと足元の携帯電話を拾うと、1通メールが入っていた。
母から「ごはんよ」と一言。
寂しいと感じられるのは、愛している人がいるからだろう。
小さく呼吸をして、息を整えた。
汗と雨と土の混じった香りに咳き込むと、
弱くなった雨のなか、全力で帰った。
私と詩
いつも同じ人間が
いつもこうして詩を書いているのに
なぜ次々とことなる詩が出てくるのか
不思議になる
途中で途絶えても
おかしくはなさそうなのに
まだ今に続く 私の詩たち
きっと
この詩の最初の行の私と
今書いている行の私は
すでにもう、違う人物なんだろうな。
一行一行に
一言一言に
一文字一文字に
ことなる私と
ことなる詩。
虹
世界中にできた闇の部分がすごいスピードでずれて
くちぶえが遠ざかり
輪郭線が地平線とまじわりながらかたちをかえて
あたしたちはまだうっすらと汗をかいて
雲の裏側にのびていく光の筋が不意に音をたててちぎれ
倒れたいくつもの植木鉢に張られたままのクモの巣が揺れ
それらにはもうなまえがなくて
捨てられた食器スプーンにフォークがぶつかって音を立て
なくしたものはさがしてもなくて
それでも俺たちは何度も生き残り
交差点に声がうかびあがりクラクションが地面に染み込んで
もう消えてしまったはずの星たちがまだどこかでひかって
まだうまれていない命が瞬間ごとに
ぶれておばけのごとく宙を舞い
空がまた新しく大胆に一枚一枚それぞれに破けて
なくしたものはさがしてもなくて
地図がひろがって道はどれも偶然につながってどこかまばゆく
メトロが徐々に各ホームを離れ加速し
ベクトルがささやきながら旋回し
バイパスはまだまっしろく
産毛たちがつぶやくいくつもの意味に絶望しながら
なお立ちあがり
捨てられた幸福を切り裂き瞬くその輝きを吸い込み
おぼろげながら記憶をたどり吐き出し
なくしたものはさがしてももうなくて
ゆっくりとたしかに虹や生きた子供たちの骨がのびてゆき
ゆっくりとたしかに虹や生きた子供たちの骨がのびてゆく
それぞれの詩の筆者に著作権は帰属します。
投稿詩 on PQs! 第7週