投稿詩 on PQs! - 第3ラウンド-
6月7日開始〜6月14日零時〆切です。(投稿順・タイトルをクリック!)
「ハロー,マイ・ハート」 /「食塩水」 /「ヒロヒト」 /
「しりとり」 /
「ちんちん」 / 「まぼろしアパートメント」 / 「幸福マキシマイズ」 / 「拝啓何方様」 /
「祈ることで許されると思っていた」 / 「表裏」 / 「満月」 / 「拒」 /
第3ラウンドへの投稿は以上の12作品でした。ありがとうございました。
第3ラウンドバトル成績速報!
27点 蛾兆ボルカ 「ヒロヒト」審査員コメントと得点分布
セックスがまだ下手糞だったころの話をしようか。
学校帰りには毎日本屋に寄って
ゲーム週刊誌から現代小説まで立ち読みした。
田舎だったあの町には
本屋くらいしか暇を潰す場所がなかった。
町に一軒しか無い本屋に
同じ制服を着た学生が皆集まった。
皆同じようにお金が無かったので
いつも本を買うわけではなく立ち読みをしていた。
その本屋の店長は中村さん、と云った。
名札に「店長 中村」と書いてあったのでそれが分かった。
立ち読みする僕らを叱るわけでもなく
レジ横で長い髪をひとくくりにし
黒縁の眼鏡をすこし皺の出来始めた手で押し上げながら
新書サイズの小説を読んでいた。いつも。
中村さんは結婚しているのか、という話になった。
その話を持ちかけてきたのは、ワルの古谷くんだった。
「他校のやつにケンカ売られたら俺に言えや」が口癖で
でもちっとも強そうじゃなかった古谷くんは、
下劣た声でにやけながらこう言った。
「中村さんは処女だぜ」
じゃんけんで負けたほうが
性風俗雑誌をレジに持っていって
反応を覗おうという話になった。
じゃんけんでは古谷くんがパーを出して
僕がグーを出した。
僕の負けだ。
二人で周りを伺いながら
本屋の端にある性風俗コーナーに行き、
黄色のビニルで十字に結んである
漫画モノの性風俗雑誌を手に取った。
表紙では童顔で巨乳のメイドが悶えていた。
古谷くんは言った。
「買ったら俺にくれな」
レジに持っていって、黙ってカウンターに差し出した。
中村さんは、読んでいた小説にしおりを挟み、
ゆっくりと眼鏡の真ん中を人差し指で押し上げると
「618円です」と言った。
そこまでは全然なんでもなかった。
中村さんが処女であるかどうかとか、
それを確かめようとすることが最低であるかどうかとか、
思いをめぐらすには馬鹿だった。
だからただ、古谷くんの言ったことを淡々とやったんだ。
けれど、中村さんのすこししゃがれた声を聞くと、
とたんに顔が赤くなった。
財布を取り出せなかった。
無理にポケットから財布を引っこ抜くと、
手につかずに床に落ちた。
拾おうとすると、ごつい手が先にそれを拾った。
見ると、生活指導の畠山先生が僕を睨んでいた。
弾けるように外に出た。
自転車の鍵穴に強引にカギを捻じ込み
引きずるように乗り出し全開で走った。
古谷くんが大声で笑いながら自転車で付いてきた。
信号が赤に変わったけれど、ブレーキひとつかけず突っ込んだ。
耳障りの悪い、クラクションが響いた。
数日経っても、生活指導の畠山先生に呼び出されることはなかった。
他にすることもなかったので、やっぱり本屋に行った。
引き戸を開けると、中村さんがこちらに気づいて近づいてきた。
「財布。」
中村さんはそう言って、僕が落とした財布を差し出した。
僕が受け取ると中村さんはすぐに振り向き、
いつもと同じようにレジに座って小説を開いた。
僕は聞いた。
「何、読んでるんですか。」
中村さんは答えた。
「三島由紀夫の潮騒。」
数秒の沈黙の後、中村さんはまた小説に目を落とし、続きを読み始めた。
僕はゆっくり引き戸を開けると、確かめるように自転車に乗り、
全力で漕ぎ出した。
高まる心臓を押さえ切れなかった。
中村さんに聞いた!
三島由紀夫の潮騒!三島由紀夫の潮騒!
中村さんと、話をした!
また赤信号に変わったけれど、ブレーキなんかしたくなかった。
いちだん強くペダルを踏むと、横断歩道を高速で突っ切った。
夕焼けの町に響くクラクションが、ファンファーレに聞こえた。
家の近くの公園で、古谷くんがつまんなそうに、
タバコをふかしていた。
「俺、セックスがしてー・・」
僕は言った。
「セックスが、したい!
」
古谷くんが目をまあるくし、
その後タバコを落とし踏みにじると、
「声、でけえよ」といって軽く笑った。
「プレハブ小屋でビニ本拾ったからさ、今から読もうぜ」
古谷くんがそう言った。
うなずくと、古谷くんを自転車の後ろに乗せ、
坂の上にある古谷くんの家に向かった。
立ちこぎで力いっぱい踏みしめると、足がペダルからスリップしてこけた。
アスファルトの坂の途中、大の字になって空を見た。
勃起して盛り上がった学生服の向う、
妙に湿り気のある満月が昇ってきた。
表裏
あなたに贈るね 最後の手紙
ずっと一緒に居たかった
愛し合っていたかった
でも もうおわり
だから 最後に贈ります
心の詰まったお手紙を
最後だから お願い聞いて?
これをずっと残しておいて
私たちの愛のあかしに
幸せだった あの頃を
いつしか思い出せるように
きっと きっとよ
最後の誕生日プレゼント
「表裏 裏」
あなたは優しく 甘いから
きっと残してくれるのでしょうね
それでこそ私の愛したあなただわ
でも きっと勘違い
あなたはきっと勘違い…
…心の詰まったプレゼント
大事にしてちょうだいね
私から離れて行ったこと
いつでも後悔できるように
たくさん心を込めたから
私から あなたへの
最高の誕生日プレゼント
祈ることで許されると思っていた
突き抜けた青天から目をそらし
振り返ってしまうことがためらわれ
気付かなかったことにした
水滴ひとつ浮かばない箱を抱えて
所在を見つけようともしなかった
抜けた羽毛を一枚入れて
ふたをしてリボンをかける
宇宙の隅に投げ込んでしまえば
それで全ては終わるはず
夕焼けにだって裏側はあって
知ることに意味はないのに
答えの書いたページを探す
祈ることで許されると思っていた
傷ついたふりをすれば撫でてくれると信じていた
やわらかい部分できゅっと押せば
跳ね返ってくるって思いたかった
んだ
いっそ溶けてしまえたら
あたためることが出来るのに
糸のように冷たい雨が
ゆびさきから温度を奪う
海の中を這い擦り回る
あの時の記憶は薄ら薄ら覚えてる
性を授かれば
雄か雌か何物か
此の世界に着陸します
脚を設けた私たち
這い蹲うのは已めましょう
ぼこぼこが一つ
重たそうに首が支えます
中身は誰も知らない
腕を設けた私たち
先端が割れそうです
私は
存在していますか
此の
場所に
お元気ですか
誰かの瞼が
そっと
終わりを告げた
私の眼も
何時かは駆け落ちするでしょう
お元気ですよ
此の世界は
当分
見開いた儘
幸福マキシマイズ
片足をはめた白い霧に
幸せを計る太陽が見え隠れ
遠くの貴方に
届け響けこの想い
切ない音楽よりも
貴方を抱き締めるこの腕を
お空の上に居る自分から
幸せを望む貴方へと
まぼろしアパートメント
僕は
アパートメントの窓から
君の住んでいた方に
見惚れている
君が
虹をつむぐ
優しい指の
君が
終わりを告げる
優しい眼の
君が
世界にいない
優しい声の
君が
僕は
アパートメントの窓から
紙飛行機を飛ばす
風に揺れる
君が
涙を流す
優しい頬の
君が
世界を覆う
優しい髪の
君が
僕の名を呼ぶ
優しい唇の
君が
僕は
アパートメントの窓から
口笛を吹く
涙がこぼれる
君が
街の隅で
いなくなってしまった
街の隅で
僕は
僕は
アパートメントの窓から祈る
太陽が沈もうとしている
このアパートメントの窓から
君が
こだましている
優しい魂の
まま
ちんちん
ふらふらせずに おさまっている
ちいさいもの ひびのしごとは
放物線状にうけわたすこと
あつささむさにじっとして
さっとくるから すっとだすんだ
どんなに意気盛んになったところで
なにかをつつみこむことはできないのだとしると
くるまれているもののやわらかさを まった
おれもゆるゆると みたされるのをまった
からだにしこりはつくらずにいよう
おれは けして武装などしないのだ
だからいつも おとなしくしている
ほんとうにひつようなときになったら
しりとり
はじめは 四文字のことばね
すきだよ
すきだよ
きすだよ
次は 三文字のことば
すきよ
すきよ
すき
さんざんな夜に
咲く花の名は
いったいなんだったかしら
しりとりの続きが浮かばないわ
きす すき きみだけを
おめでとう 後ろ髪 みかん
ヒロヒト
「ヒロヒトさんから電話よ。」
と、妻は言った。
激しい雨が降っていて、ときどき稲妻が濡れた窓を明るく染めた。
受話器の向こうで、ヒロヒトは沈黙していた。
「ペシャワール会の人、殺されたよ。」
と、私は言った。
対日感情が悪化しているらしい。
「うん」
と、昭和天皇は言ったのだった。
雑草という名前の草はない、と、天皇S氏はかつて言った。
雑民という人間は、
いない。
よね、 と私は思ったが、
いつの間にか電話は切れていた。
先日行った靖国神社にも、ひどい雨が降っていて、
明治天皇の歌が置かれていた。
くにのため 心も身をもくだきつる
人のいさをを たずねもらすな
公務員は、武勲をちゃんと調査しろ、という意味だろう。
天皇M氏の言うことは、良くわかる
と、
靖国に併設されてる記念館の
ゼロ戦の横に座って雨宿りしながら、
私は思ったのだった。
渋谷に行きつけの店がある。
S氏とM氏が共同経営するSMクラブだ。
その店に行くと、縛ったり鞭を打ったりする係りのお嬢さんがいて
いろんなことをしてくれるが、
私は行かない。
風邪を引いていて、係りのお嬢さんにうつしたら気の毒だからだ。
アフガンに緑を、とペシャワールの会の人は言う
緑は尊い。
雑草という名の草はなく
雑民という名の人間はいない。
四千五百年前に栄えたインダス文明の都市国家群の人々は
高度な治水能力を持つ農耕文明を営んでいたが、
エジプトとは違って、彼らの都市には権力者というものが
いなかったのだという。
みんな平等だったし、驚くべきことに戦争の痕跡も
武器も、まったく発見されていないのだという。
HなSMクラブでは
縛り係の人に縛られたり
鞭打ち係の人に鞭打たれたりしながら
国民が
前進に忙しい。
まじめに
芋虫みたいに。
文明とは何なのかも考えず。
拘束される快楽の中で。
破綻しかけた社会の摩天楼で。
〈御調教ありがとうございました〉
と、今夜も
幽霊達が敬礼する。
私は雨の街をさまよいながら
携帯電話を開いて
天皇S氏に電話する。
「Mさんの言うことは、俺にはよくわかるよ。」
と、言うと、
「うん。」とS氏は言う。
私は考える。
仕事はみんな大変だ。
SM嬢も軍人も公務員も
いろいろある。
いろいろない仕事なんか、ないさ。
だけど、
病気になる係りの人も
死ぬ係りの人も
いてはいけないんじゃないかな
「そうだろ。」
と口に出して言うが、
電話はとっくに切れている。
食塩水
流し込まれるブドウ糖をとなりに
静かにベッドに横たわる身体
人生で初めての経験を
二十歳を過ぎてから培うというのは
嬉しいような歯痒いような恥ずかしいような
透明の袋の中に満杯だったブドウ糖は
もう半分、身体の中を循環している
生き延びるのは
望んで、の方が幸せなのではないか
生かされているのは
私だけではなく世界中のイキモノ皆がそうであり
人類皆兄弟という言葉はあながち嘘ではないと
テレビニュースで見たある有名人の死が
実は案外身近な事件だったことを知って
思わずほくそえんでしまったものだ
私は海が嫌いだ
あの塩辛い水の味がどうも合わない
水の中なのに細かな砂が水着の中に入り込む
あの気持ち悪い感覚は
母親と乗った地下鉄で突然話しかけてきた
見知らぬおじさんが
これまた突然に腕に触れてきた瞬間慄いた
あの粟立った感覚に似ている
その時貰ったお菓子は食べずに捨てた
ある凶悪事件が世間を騒がせていた頃だ
ブドウ糖、ブドウ糖、葡萄、糖
砂糖と同じ触感がするこの言葉を聞くだけで
恐怖でしかない注射針も自然に受け入れられる
ショ糖、果糖、グラニュー糖、
摂り過ぎは身体に悪い、といわれているけれど
ブドウ糖は同じ糖でも敬われているのですね、なんて
中学生に戻って勉強しなおしなさいと知らない人にまで
説教されそうなほど馬鹿げたことを
看護師に呟いてみた
彼女は一瞬目を細めてもすぐに微笑んで
「糖は人間の生きる源ですよ」
と言った
お菓子嫌いもブドウ糖には世話になっている
塩分を控えねばならない人も体内の90%は食塩水だ
どうせ過剰摂取で死ぬのなら甘い方が良い
カライのは嫌いだから
ツライのは耐えられないから
欲しい物が全て手に入る豪華客船で半年旅をした人達が
港に戻ってくる頃には殆ど生きていないらしい
人間は、隅々まで満たされてしまうと
最後に沸く欲求は「死」だそうだ
無表情で海に飛び込む人々は
糖分塗れの肉体を食塩水の水がめに投げ入れるのだ
それはあるべき生態系だ
「終わりましたよ」
看護師が私の皮膚から針を抜いた
蛍光灯の白がやけに眩しい
ホワイトボードの細かな傷まではっきり見える
身体を起こして彼女に頭を下げて
アルコールの染み込んだ脱脂綿を受け取る
待合室に座っても少し経ったら走り出したくなる
名前を呼ばれて会計を済ませ、職場に電話を掛ける
「一発キメました。もう大丈夫です」
電話越しの上司はケラケラと笑う
外の風が少し塩辛く感じた
私は楽しくなってフッと笑い
ステップを踏みながら駅に向かった
あのお菓子はきっとカライのだ
ハロー,マイ・ハート
ハロー ハロー マイ・ハート
この声は 聞こえていますか?
僕は君に話しかけてる訳だけど、
僕は 一体誰なんだろう?
ハロー ハロー マイ・ハート
僕の声は 届いていますか?
僕は僕に語りかけてる訳だけど、
君は 一体誰なんだろう?
僕の知らない僕が君なら
君の知らない君は、僕
背中合わせにあわせ鏡を
今見えているどの僕が、僕の影なんだろう?
ハロー ハロー マイ・ハート
僕の声は 響いていますか?
僕は君に寄り添っている訳だけど、
君の心に触れられないのは、どうしてだろう?
ハロー ハロー マイ・ハート
僕の声は 届いていますか?
僕は僕に近づいているはずなのに
君が分からないのは、どうしてだろう?
君は何処にいるの?
十数年来の隠れんぼ
僕はそろそろ降参するよ
だから、ねぇ、教えてよ
胸の中かな? 頭の中かな?
それとも心臓の中なのかな?
夢の中かな? この手の中かな?
それとも存在しないのかな?
教えてよ
君の居場所なんて、実はどうでもいいんだ
だって、君は側にいてくれるから
君が誰かなんて、実はどうでもいいんだ
だって、君はここにいてくれるから
これからも、よろしくたのむよ
ハロー ハロー マイ・ハート
この声は 聞こえていますか?
僕は君に話しかけてる訳だけど、
君は 一体誰なんだろう?
ハロー ハロー マイ・ハート
僕の声は 届いていますか?
僕は僕に語りかけてる訳だけど
、
君はきっと、これからも一緒に
6月13-14日にかけて、編集人のミスによりため投稿と異なる詩が掲載され続けておりました。
投稿者の方々、ご覧戴いている皆様にお詫び申し上げます。
また編集人不在のため、14日夜までの投稿を、今週分とさせて戴きますと並びに、
更新状況の遅れについても、陳謝致します。
至らない者の勝手で申し訳ありませんが、出来ましたらあと4週間、どうぞお付き合い下さいませ。
泉由良拝
それぞれの詩の筆者に著作権は帰属します。
投稿詩 on PQs! 第3週