カマタまで文学だらけ
出店者名 にゃんしー
タイトル ポエムの墓
著者 にゃんしー
価格 500円
ジャンル 純文学
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紹介文
山口県の田舎町に暮らす、二人の姉妹。
孤児院から養父に引き取られた二人は、
父を「あのひと」と呼んだ――。

1年後に予知された大地震までどう生きるか、
姉妹の目線から、研究者の目線から、
引きこもりの目線から、妊婦の目線から、
描いています。

女の子多めの、普通の話。
戦争後のディストピア描写も普通。
普通な話が好き。

メインテーマは「ポエム」。
それが世界を救うのか、それとも世界を終わらせるのか。

ウェブ投稿企画「言葉でハートを打て!」で
清流キライ名義で書いていた作品の再録です。

 その姉妹は、父親のことを「あのひと」と呼んだ。

 浴衣を着た姉妹が、田んぼ沿いのひび割れたアスファルトを歩いている。
 空は青いばかりで、ところどころ花曇、つまりありふれた四月の白昼の光景。
 特別なことなど何ひとつない道を、姉妹が歩いている。
 
 姉・清水玲は、ヴィヴィッドな赤色の浴衣の裾を深く折り、ミニスカートのように細い脚を見せつけている。春のやわらかい太陽の光は、肉付きのよい太腿を露わにする。元陸上部。怪我と受験勉強を理由に、高三となった春に早めの引退をしたばかりだ。200m女子の県高校生記録を持つ彼女の引退を、周囲は「早すぎる」と惜しんだ。陸上をしている子にしては、肌はずいぶんと白い。トラックの先頭を疾走する姿は白狼のようで、フィニッシュを決めた後にタイマーを振り返り喜びを隠さないヒロイックな姿は、他校含め女子の人気を集めた。しかしその実「走るのが好き」なだけの女の子で、今はナイキのシューズを左手に抱え、あたたかくなったアスファルトの感触を素足で楽しんでいる。右手には飲み干した後の氷結果汁。酔いの回った足取りは軽やかで、しかし危うく、路傍の草むらに足を踏み入れたタイミングで、空き缶を田植え前の田んぼに投げ込んでみせた。後ろを無邪気に振り返り、大きな声で笑う。
 
 妹・清水愛は、呆れた顔でその様子を見ている。黒い落ち着いた模様の浴衣をお手本のように綺麗に着込んでいて、小振りな桜花で装飾された草履を歩きにくそうに前に進める。草履が砂を噛むジャリジャリという音にはっきりとした二重まぶたを顰めると、手入れのしていない太い眉が分かりやすく動いた。姉とは反対に色黒だが、何かスポーツをしているわけではない。今春に中二になったばかり。帰宅部。スポーツは苦手で、学校の成績もよくない。友だちは少なく、学校帰りの古本屋で漫画を読んでいる時間が一番好きだ。「何をやらせてもダメ」というのは、本人が自覚している。浴衣の着付けだけは心得ているかと思いきや、時折胸元の裾をずらして豊満な胸の谷間に滴る汗を拭うあたりは、やはり隙だらけだった。
 
 清水玲と清水愛。この姉妹は、見た目も性格も正反対だった。
 唯一共通していたのは、父を――、養父を、嫌っているという点だけだった。