五月六日が近づいてくるにつれてそわそわと落ち着かない様子だったから、何かを準備しているんだろうな、とは思っていたけれども、当日のサッカの様子というのは、さすがに、わざとらしすぎやしないだろうか、と思えるほど、あからさまだった。 別にいいんだ、構わない、と言い聞かせていたけれども、朝起きてからずっと、挨拶はしない、目は合わせない、出かける前に声をかけようとすればトイレに逃げる、と露骨に避けられていれば、わたしだって少しは傷ついたし、それを狙っているのであれば、お見事、としか言いようがない態度だった。だってわたしは一瞬、サッカに本当に嫌われているのかしらと、真剣に悩んで、信じかけたぐらいなのだから。 極めつけには、わたしの住む場所でもある部屋のドアの前で、締め出しを食らう羽目になったのだ。 ドアノブを下げて、ドアを手前へ引いてみても、十センチほど開けたところで、がん、という固くて鈍い音がして、ドアノブを握る手に衝撃が走った。ドアロックがかけられていて、外からの侵入者は徹底的に拒まれていた。 せめて、ドアの開いた隙間に顔を寄せてみると、玄関先は暗くて、部屋の奥の様子はよく見えなかったものの、誰かが忙しなく動き回っている気配はした。それが誰かは分かっていたから、「サッカ」と呼びかけると、少しの間の後、がしゃん、と派手な音がした。食器を落としでもしたんだろう、と思って、そんなに驚くぐらいなら、はやく私を部屋に入れてくれれば良いのだ、と考えていた。 「もうちょっと。もうちょっとだけ待って、繭。もう、すぐだから!」 けれど、部屋の奥からサッカがそう叫んだ。声はうわずって、早口で、要するにひどく焦っていた。すぐにでも部屋の中に押し入って手伝いたい衝動に駆られたけれど、ドアロックがあるとなると難しく、サッカの言うとおり、わたしにはあと少し、を待つしかできることはないのだった。顔をドアから離してため息をつき、ゆっくりと最後までドアを閉め、廊下の塀にもたれかかって、鞄を足元へ下ろした。 サッカと暮らし始めてはじめてやってくるこの日付だから、きっと何かは用意されるだろうと思っていた。予想して、主に心の準備もしていたのに、実際にことを起こされると、落ち着いてはいられなかったのだ。
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