|
|||||||||||||||||
「あのさ、桐緒さん。名前、呼んでくれない?」 |
| ||||||||||
高校生の桐緒が付き合っている人は、うんと年上のジャズピアニストだ。 敬語で話す桐緒に、荘平さんはコーヒーを飲みながら色んな話をしてくれる。笑う時は顔をくしゃくしゃにして笑う少年のような人。 ある時はバーバパパの絵本について語り、ある時はバレンタインのチョコを一緒に選び、ある時は呼び捨てにし合ったり、ある時は百年後の自分たちの未来について語ったり。 そういうふたりで過ごす大事な時間──親友のマキちゃんに言わせると「ノロケ」以外の何者でもない──を切り取り、数編のお話が成り立っている。 機知に富んだ会話に「武勇伝のような夏の思い出話をする」同級生など現実を感じさせる描写の細かさが特徴的で、読者を女性向けのファッション誌をのぞいたような、おしゃれで夢見心地な気分にさせてくれる。 ところで、二十五の男性と付き合っている女子高生と聞くと、ぞろっとしたつけまつげに短いスカートを穿いているイメージがわくが、「ピアニストの恋ごころ」の桐緒はまったく違う。 むしろクラスの女の子たちが年上の彼氏のことを「得意げにブランドもののアクセサリーを見せびらかすみたいに自慢」する中、居心地悪そうにしている、おとなしくて清楚な子だ。 壮平さんは桐緒のことがどうしようもなく可愛いと思っているし、桐緒は桐緒で、きちんとした身なりのこぎれいな壮平さんを、クラスの誰にも見せたくないほど夢中になっている。 いつも家に来てくれて悪いから、と彼氏である壮平がSuicaをチャージしてくれる話があるように、たぶん学校帰りに彼氏の家に寄っているのだろうと想像されるが、二人はいたって清い交際で、ミントタブレット味の淡いキス止まりだ。 周りを固めるキャラクターも生き生きしている。教師と付き合っているという噂がある木崎さん、そんな彼女が調子の悪いときに男子に威勢のいい啖呵を切って黙らせた、桐緒の親友のマキちゃんなど。 マキちゃん視点は、やや辛口だけど、恋していない人からみた「壮平さん」の姿がわかりやすくていい。 2014年度発行の本に、二編の書き下ろしを加えたリニューアル版。 | ||||||||||
推薦者 | きよにゃ | |||||||||
推薦ポイント | 世界観・設定が好き |