……子供の頃、仄かに恋心を抱いていた女の子から手紙があった。 紺野惇(こんのじゅん)様――。 あの頃と全くイメージが変わらない。 白い便せんの上に清楚な字で書かれた文章は、僕の感傷を心地よく引っ掻き――。 ……あの重苦しく、けれど同時に幸せを得た幼少時代を思い出させてくれた。 あの頃。 自分の中でくすぶる暗い炎に炙られただ身を焦がすだけだった日々――。 僕は常に怒りに苛まれながら生きていた。 自分も、自分の周りの者もすべて思い通りにいかず、そして思い通りにならない理由がわからない。 理解できない。どうして。 何か言おうとしても、そもそも誰も僕の言葉に耳を傾けてくれない。 僕はただ鬱憤を溜め込むしかなく、そして誰かを恨んでいなければこの世から消えてしまいそうなくらい、自我が酷薄だった。 自分は誰よりも物事を深く考えていて、誰よりも何よりも、なんでもわかっているのに。 誰もそれに気がついてくれないし、僕を見てくれない。 僕は優れすぎている。感性が鋭利すぎるんだ。 僕は……受け入れられない。 …そんな考えが、ある日を境にグルリと反転した。
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