「……俺さ、たぶん実家の墓入れねえわ。悪りぃけど、俺が先に死んだら始末頼んでいい? おまえと同じ墓が良いとか、んな贅沢言わないからさ」 「……ばかやろう」 くすぶって震えた声が、途端にぎゅっと胸の奥を掴みかかってくる。 何度も何度も、繰り返し聞かされた決まり文句みたいな言葉なのに響きがまるで違う。絶望と怒りと悲しみと慈しみと――そのすべてがごちゃ混ぜになって、感情に波を立てていく。 こんな思い、させるつもりなかったのに。 まざまざと冷えていく指先に体温を取り戻すことを求めるように、ぎゅっときつく背中に腕を回して抱き寄せれば、みるみるうちに広がる見知ったそのあたたかな感触を前に、息が詰まるような途方も無い安堵感に溺れていくのを感じる。 「……ごめん、ほんとごめん。もう大丈夫だから、このぐらい別に平気だから。心配かけてごめん」 「……いいよ別に。なんでおまえが謝んだよ。おまえ悪く無いじゃん。悪いのは俺じゃん。なんで俺じゃないんだよ。なんで周にそんなひどいことすんだよ」 許せない、とそう言いながら、しばしばそうするように、わしわしと乱暴に髪を掻き回される。触れたその先はぎこちなく震えて、軋む心の有り様をそのままこちらへと伝えてくる。 「……俺が許さないから、それでいいよ。周はもう何にも考えなくていいよ。な? いいから、俺が全部背負うから」 くぐもった涙交じりの声に、息が詰まる。 なんだよこいつ、知ってたけど底なしのバカだ。こんなバカ、一生かけて面倒でも見てやれねえと心配でおちおち墓にも入れねえ。 「……忍」 無様にくぐもって震えた声で名前を呼ぶ、ただそれだけで精一杯だ。 答える代わりのように、きつく回された掌で髪や背中をなぞられるその度、幼い子どもにでも戻ったような心許なさと、途方もない安堵感がふつふつとこみ上げてくるのを感じる。
どこにも帰れない迷子の子どもの気分を、今更のように思い返す。なのにちっとも怖くなんてない。 こいつだけが帰る場所だった。たぶんずっと前からそうだった。 そんな当たり前のことを改めて気づかせてくれたのだから、いっそあいつらには謝辞でも送りつけてやりたいくらいだ。
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