尼崎文学だらけ
ブース June2
ヨモツヘグイニナ
タイトル 喫水線
著者 孤伏澤つたゐ、渦保
価格 300円
カテゴリ ファンタジー
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紹介文
ヨモツヘグイニナ合同誌第2弾!
「海洋(浅め)」をテーマにした短篇2篇とイラストを収録。
表紙はTOMOさんの水中写真という、
ヨモツヘグイニナお初のかたにもおすすめの、
海度100%の短篇集です。

収録作
「海面のクラゲ」渦保
「迎え火」孤伏澤つたゐ

  「海面のクラゲ」 渦保
宇宙のどこかにあるという水の星。海のあるこの星には資源豊かにあふれ、生命の魅力が輝いている。この世界では今までたくさんの人類が繁栄していった。様々な種類の生き物が長い時間の中で知性を目覚めさせ文明を生み出しては人類を自称していった。例えば、ある二本足の種族は道具を作ることに長け宇宙へ旅立ちこの星から去っていった。あるいは別の種族は甲殻に覆われ強い力を持っていたが争いにより滅びた。
たくさんの人類が繁栄する、その度に星は汚染され傷ついてきた。以前の人類が生まれた大地を自ら汚して、そして見捨てるように去ってからどれくらいの時間がたったのだろうか、また新たな人類がこの星では目覚めようとしている。前文明の影響かそれとも別の因果か、それは海中で産声を上げた。

  「迎え火」孤伏澤つたゐ
 バスは日に二本、そのバスで一時間揺られてようやく、一時間に一本だけ運行される電車の始発駅にたどり着ける、世界のはじまりみたいな場所で、私とりりはほとんど日をおなじくして生まれ、同じばばのところへ預けられ、小学生になり、中学生になった。
 おさがりのような大きすぎる小学校には、児童は私とりりのほかは、四つうえの学年に双子の男の子がいるばかり。かつては四十人近くのこどもを収容していただろうこの教室には机はふたつしかなく、放課後の校舎はがらんとしていてテレビでよく見る、すくない数のこどもの、底抜けに明るい笑い声が響いていることは、一度もなかった。
「おまえたちはこの村のさいごのこどもだから」と私たちを押しつけられていたばばは口癖のように言っていた。血のつながりはないにせよふたごのようにして育ってゆく私とりりが、四つうえの双子の男児とつがい子をなして、もう一度この村を、小学校の校舎の空虚を埋めるのだと、年よりたちは信じていた。


深い海が好きな人におすすめしたい

「海面のクラゲ」は人類が滅んだ後進化したクラゲたちの物語。SFっぽい雰囲気とユーモラスさと、ちょっとした不気味さが魅力的だった。火の鳥やバベルの塔の話を思い出す。クラゲたちの神話なのかもしれない。

「迎え火」は少しずつ少しずつ朽ちていく島の物語。読んでいるとひたひたと水位が上がってくるような雰囲気がある。海からは死者がやってくる。つまり、水位が上がってくると死者も一緒に迫ってくるように感じられる。島は海に、あるいは死に、呑み込まれてしまうのかもしれない。

雰囲気の異なる海に纏わる2作品のバランスが、タイトル通り「喫水線」を維持し、作品をより面白くしているように思えた。他の作品も読んでみたい。
推薦者なな
推薦ポイントとにかく好き