「ようこそ、我が騎士団へ。我々は、君を歓迎する」 突然、目の前の人物にそう言われ、ルージャはぽかんと口を開けた。 〈……騎士、団?〉 ルージャは、人里離れた山の中腹にひっそりと佇む、村と言うには小さ過ぎる場所で育った、ただの少年。この前ようやく十四になったばかりだ。父からは野山で生きる術や弓矢の技を、父の兄である伯父からは剣術を、そして伯母からは読み書きや計算を習ってはいるが、どれもまだ中途半端。日々の暮らしで精一杯の、ちっぽけな存在だ。冬の夜に暖炉の傍で伯母が話してくれる物語に出て来る、弱きを助け悪を倒す強靱な存在である『騎士』から、自分ほど掛け離れた存在はおそらく、無い。なのに、俺が、『騎士』? この人は何を言っているのだろうか。 「……あ、れ?」 ルージャが戸惑いの表情を浮かべたのに面食らったのか、ルージャの目の前に立つ青年は、肩に掛かる濃い色の髪を左手でぐしゃぐしゃにしながら言った。 「あ、やっぱり、俺、『騎士団長』には見えない、か?」 そう言われて、改めて目の前の人物をじっと見詰める。ルージャと同じくらいの背丈で、ルージャよりはほんの少しだけ年上に見える、おそらく男性。緋色の上着の上に、鎖帷子の肩と胸部分を板金で補強した黒光りする鎧を身に着け、羽織ったマントを椿を模した銀色の留め金と、狼を象った金色の留め金の二つで留めている。幅広の剣を黒い剣帯で吊り下げてはいるが、小柄でほっそりとした身体つきをしている所為か、武よりも文で王侯に仕えている人であるようにルージャには見えた。顔立ちも、纏っている雰囲気も、中性的で優しげだ。伯母が話してくれる物語に出てくる『騎士』からは、やはり、掛け離れている。こんな人が『騎士団長』になれるのだろうか? 「まあ、よく言われることだから」
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