尼崎文学だらけ
ブース 詩歌B
ゲラサ
タイトル その人の名は反逆と云ひます
著者 かかり真魚
価格 200円
カテゴリ 詩歌
ツイートする
紹介文
「さあ、見極めるがいい。もう千五百年の時が過ぎた。よくよく人間を見てみるがいい。お前が自分と同じに扱った連中がどんなやつらか。誓ってもいい。人間はお前が考えるより、ずっと弱々しくて浅ましいのだ。そんな人間とお前が、同じ天秤にかけられると思うか。」(「カラマーゾフの兄弟」ドストエフスキー)

短歌集。
宗教哲学的な作風のものが点々とあります。
挿絵にコラージュ画が載っています。
『枯渇の椅子』『えめらるど』『ゲラサ』『兆しへの社交』収集。
巻末に映画「鉄コン筋クリート」十周年記念俳句十句。

 『 枯渇の椅子 』
初乳癌検査受けつつ窓見ればむかうに火事の兆しを見たり
火はつねに平等ならむひばりわれきみくにすべて灰燼にして
黴びてゐる水を百合花に吸はす朝、大工はひとり渇きて果てり
火のくにに降る雪しづか憎しみを思ひだすのち薔薇にかはるも


 『 えめらるど 』
はちみつをほどいてゐるの手癖より迎へる夜の贓物として
ロプロプの聲よわたしは森であり昏きあさがを隠してをりぬ
バツコスの狂女羨しきかしづける夜をもたねば迷ふばかりで
水菜刻むやうにいのりをするひとの足首ばかりあつめてゐます


『 兆しへの社交 』
薄膜のやうにたれかを否定するための季節に桜は咲けり
このひとは死ぬだらうなと眺めつつ座席を立たぬ春のゆふぐれ
自殺するだらうとおもふ友がゐてひとりふたり……と肩叩かれる
齒を磨くだれのことも好きぢやないのかも知れないとふと思ふとき
蝉聲に満つる夏蚊帳しづもりぬあゝしぬまでにあたふどれだけ
ひつひゆと浮かび揺れたる燈籠火うつすみづ見ゆ果てまで黎(くろ)き