『 枯渇の椅子 』 初乳癌検査受けつつ窓見ればむかうに火事の兆しを見たり 火はつねに平等ならむひばりわれきみくにすべて灰燼にして 黴びてゐる水を百合花に吸はす朝、大工はひとり渇きて果てり 火のくにに降る雪しづか憎しみを思ひだすのち薔薇にかはるも
『 えめらるど 』 はちみつをほどいてゐるの手癖より迎へる夜の贓物として ロプロプの聲よわたしは森であり昏きあさがを隠してをりぬ バツコスの狂女羨しきかしづける夜をもたねば迷ふばかりで 水菜刻むやうにいのりをするひとの足首ばかりあつめてゐます
『 兆しへの社交 』 薄膜のやうにたれかを否定するための季節に桜は咲けり このひとは死ぬだらうなと眺めつつ座席を立たぬ春のゆふぐれ 自殺するだらうとおもふ友がゐてひとりふたり……と肩叩かれる 齒を磨くだれのことも好きぢやないのかも知れないとふと思ふとき 蝉聲に満つる夏蚊帳しづもりぬあゝしぬまでにあたふどれだけ ひつひゆと浮かび揺れたる燈籠火うつすみづ見ゆ果てまで黎(くろ)き
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