一 薄氷を割るぼくら恋地獄いき 春浅き洋菓子店で逢ふ死神 偏西風つばめたちのきれいな悪意 出勤をするとき踏み絵ごこちかな 野蛮とは思はずきみに春を売る 藤房のゆれてひとつがおまへの掌 くびすぢにふれたところから蝶になる 夢に夢呑ませはまぐり汁すする 子午線を抜けて五月の野に至る 死神の少年めくや初競馬 天瓜粉うちあふても隣人ならず 奇形疾く熟れて桜桃ジャムみだら のびきらぬ脛に花茣蓙花の跡 他界よりグラスかたむき夏季休暇
二 次子転生末子戴天冬銀河 わかものはとはおもふものみづ汲みぬ 蓬莱の翡翠の橋に余光かな 春襲ひがはりに兄連れ去りぬ 小夜時雨銀のスプーンが曇りゆく 雑煮して兄かへるいつかかならずかへりくるを待たう 墜ちるために糸に繰られる傀儡かな 祝祭に花冷えの檻ひらかれる 芳恩を奪ひつくして春の水 廃帝がらんるのどかにあふむけり 春の夢みんなあなたにさしあげる 五位の鷺病むほどに透きとほりゆく
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