尼崎文学だらけ
ブース June1
午前三時の猫
タイトル Short Story Selection
著者 きよにゃ
価格 0円
カテゴリ JUNE
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紹介文
A5/26P/無料配布

きよにゃの発行した小説の番外編+書籍情報。

「あたたかな掌」腐女子と小鳥遊先輩(攻め)のやりとり・挿絵あり/
「お義兄さまに愛されて」幼少期・義兄(攻め)がやきもきする話/
「人魚姫の末裔」主要キャラのいちゃいちゃ漫画





「シャーディーン?」
「ひゃっ!」
 背後から声を掛けたのがまずかったのか、全身で飛び上がらんばかりに驚いている。
「なんだ、そんなにびくびくして。盗み食いでもするつもりか?」
「う……、ううん。今日怖い話聞いたから、つい」
「怖い話?」
 聞いてみると、墓地に埋められたはずの死体がなく、夜になるとズズズ……と地面を擦るような音が聞こえるという。
「作り話だって思うんだけど、死体に虫がわいているとか、この時期ありえるなぁって思ったらぞっとして。夜になると、死体がその辺にいるんじゃないかって 思うと怖くって……。小学校から帰ってきて、レムルスと遊んでいた時は忘れられたけど。喉が渇いたからミルクをもらいに来たんだけど、食堂には窓がないか ら、怖くなっちゃったの」
「ほぉ」
 ほの暗い食堂を覗うシャーディーンの瞳は揺れて、心底おびえきっているのだと窺いしれる。
 やれやれ、と先に食堂に入り、おかしいところがないか確認する。使用人がひとり、食器を片付けていただけで異変はない。
「私が見たところ、その死霊はここに来ていないようだな」
 そう言って、使用人にいいつけてもらったミルクを手渡してやると、ほっと胸をなで下ろしていた。
「よかった。カナンのやつ、ほんとに人をおちょくるのが好きなんだから。……ね、兄さま。お願いがあるの」
「なんだ」と答えながら、リディウスはその先の言葉を想像してみる。おおかた、一緒にトイレに行ってほしいとか、部屋までついてきてほしいとかだろう。シャーディーンは動物や生きている者には真っ向から向かっていくたちだが、死霊など怖ろしい部類のものには弱いらしい。
 そういう姿も、リディウスの庇護欲をかき立てられるのだが。
「あのね。今晩だけ、一緒に眠ってくれないかなぁ」
「ひと晩……?」
 心臓が大きく鳴った。密かに恋慕っている者と、ひと晩同じ寝台で眠るというのか。
 ──なにも出来ないのに?
 それは拷問に近いのではないだろうか。