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カレイドスコープアフタースクール Part1(プロローグ) |
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みずみずしい情景がクールで明晰な文章で描かれた、少女たちの鼓動に触れる短編集。窓ハルカさんによる表紙イラストも素敵な一冊です。 プロローグの一文、「放課後の世界は、今日もキラキラと荒廃している」、これに尽きるのでしょう。苦しくて、泣き出したくて、ヒリヒリして。安易な救済はない、でもそれこそが光たり得るのではないか??そんな切実で誠実な物語群です。 9編の物語は、いずれも少女たちによって語られます(ちょっと大人の女の子のお話もあります)。彼女たちを取り巻く環境は明るいものではありません。学校に行かない子や父親を亡くした子。 けれどつらいのはそういう表層や事象そのものではないでしょう。またしてもプロローグから引用しますが、「自分も、世界も好きになれないけど、絶望的なのは、生温い退屈と失意の中で、絶望しきってすらいないということだ」ということ。 彼女たちの抱える痛みや不安はどこにでもありながら、どうあっても解消できない何かです。世界が終わってしまうほどの、自分を決定的に変えてしまえるほどの絶望や希望はもはやない。現代的といえばそうかもしれません。 そういう中でどう生きるのか、生きねばならないのか。9編の物語は、その絶望を徹底的に、しかし乾いた筆致で突きつけます。とはいえただ痛みをえぐるわけではありませんし、無理に救いを差し伸べるでもありません。短い物語のなかで痛みを痛みとして描き、そっと寄り添う佇まいは見事で、稀有な読書体験でした。 個人的には『ネガティブサニーサマーデイ』が刺さりました。これのみ主人公がちょっと大人です。母親から届くカニ、というモチーフが示す「絶望しきれない日常感」。その悲しさとオカシミ。なんとも絶妙です。 短い物語たちはどこか淡々と流れ、しかしいろいろな風景をみせてくれます。物語をたどった読者にそっと提示されるエピローグが沁みます。最終ページ、ラスト2行のことばが手渡してくれるもの、その光。 ぜひ読んで、裏表紙に描かれた少女と視線を交わしてほしいです。女の子の表情にあーってなる。お守りみたいに、そっとポケットに忍ばせたい一冊。 紙の本をめくって読むよろこびのひとつってこういうところにあるのかも、なんてちょっと大げさな言い方ですけどそんなふうに思いました。 | ||||||||||
推薦者 | オカワダアキナ | |||||||||
推薦ポイント | 世界観・設定が好き |