「ねえ、手を繋いでもいい?」 恋人の双子の姉から差し出されたのは、いかにも彼女らしいそんな提案だった。
「いいけど――」 戸惑いを隠せないこちらを前に、にっこりと得意げに笑いながら、祈吏は答える。 「マーティンはわたしのお兄ちゃんでしょ? だったらはずかしくないかなって」 「……もちろん」 遠慮がちに、差し出された白くてちいさな、やわらかな掌を僕はそうっと包み込むように握りしめる。すっかり慣れてしまったそれよりも一回りはちいさくて、頼りなくて―きっと、彼がずっと触れたくて、その願いを閉じこめてきたはずのそれにこんなにもあっさりと手を伸ばすことが赦されてしまうだなんて、どこか複雑な気持ちにならざるを得ないのだけれど。 ぐらり、と揺れる思いに足を取られてしまわないようにと踏みとどまるようにしながら、口元だけは精一杯の笑顔を作ってみせる。そんなこちらの様子に気づいたのか、にっこりとあのまぶしげな笑顔を浮かべながら投げかけられる言葉はこうだ。 「カイともね、子どもの頃はよくこうやって、手を繋いだの」 長い睫毛をふわり、とそよがせるようにしながら、僅かに目を伏せて祈吏は呟く。 「大人になったら家族とも手を繋いじゃいけないなんて、そんなの変だなって、ずっと思ってた」 僅かに滲んだ言葉の端からこぼれ落ちていく本音に、ぎゆうっと胸の奥をさらわれるような心地を味わう。あまく息苦しい心地に酔いしれるかのような心地になりながら、握りあった指の先に、ほんの少しだけ力を込める。 大丈夫、離さない。大丈夫、わかってる。形やいきつく先はたとえ違っていても、こんなにも大切なのは、僕だって一緒だから。
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