尼崎文学だらけ
ブース 企画本部
おとそ大学パブリッシング
タイトル ホクリクマンダラ
著者 北陸アンソロジー
価格 800円
カテゴリ 大衆小説
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紹介文
福井・石川・富山をテーマにした文章メインのアンソロジー。
小説を中心に、短歌・紀行文・エッセイなど26作品を掲載しました。

北陸が故郷だったり、住んだことがあったり、今暮らしてる場所であったり、関わりがあったり、憧れがあったり、行ったことがあったり、興味があったり……
27人の執筆者の、北陸への思いが詰まった作品集です。

『海柘榴(うみざくろ)』(小説×コミック) 花うさぎ(磯崎愛・うさうらら) 【福井】

 あれは小学校四年の夏休みのことだ。
 僕にとって小浜の祖父母の家は、なによりも二つ年上の従兄の勝くんと遊べる場所だった。勝くんは浴衣を着て縁側の籐椅子に腰かけて本を読んでいた。僕を見ると眩しそうに目を細めた。蜩が啼くころになると、勝くんは僕を連れて万屋へ行く。そのままアイスを片手にすぐ近くの浜辺へと向かう。遠浅の海は波が穏やかでやさしい顔をしている。明日は朝から泳ぐよと勝くんがほほえんだ。勝くんは遠泳が得意で市の大会 で優勝したこともあった。夕食後、お勉強も一番なんでしょうと僕の母親が羨ましげにつぶやいた。うちのはどうしようもなくてと零す。勝くんのお母さんが、徹くんは明るくて素直でいいじゃありませんかと言ってくれた。僕はそっと勝くんの横顔を盗み見た。まぶたの静脈が透けるように青く、色白の肌はみっしりと詰んでいた。


『金色の雪』(短歌) 酒井真帆 【石川】

水鳥は沖の向こうを見たいと言う片野の塀を翼で叩き

底曳船帰港の無線受けひらく百年前の友禅の花


『さよなら、ミラージュ』キリチヒロ(小説)  【富山】

 増谷のカバンにはいつも小さな双眼鏡が入っているということをあの中学の中でまず発見したのは私だったと断言できる。彼がバスケ部であったこと、抜群に成績優秀であったこと、抜群に足が速かったこと、それだけじゃなく、いつもカバンの中にその双眼鏡を忍ばせて、日の長い初夏の帰り道など、防波堤にひとり仁王立ちして双眼鏡を両手にずうっと水平線を見つめているということを知っているのは、それをまずはじめに知ったのは、絶対に、この私である。
「何しとんが、増谷」
 吹奏楽部の帰り道、その姿に出くわして思わず声をかけた私に彼はびっくりするわけでもなく双眼鏡を下ろし、ただいつものぼんやりとした目で防波堤から私を見下ろしたのだ った。
「何見とら? それ」


北陸の新しい面を見せてくれるアンソロジー
あなたは北陸ときいて、何を思い浮かべますか?


この本の中には作家さんたちの思う北陸が詰まっています。

ある人にとっては遠い行ってみたい土地であったり、
ある人にとっては懐かしいふるさとであったり、
ある人にとっては身近な生活圏であったり、

また、ある人にとっては次々と興味が尽きぬ魅力ある場所であったり。


行ったことがある知っていると思っていた北陸のまったく別の姿が隠れています。


縁あって関わらせていただきましたが、作者さんごとに感じる北陸がさまざまな形で表現されていて、
一つ読み終えるたびにこんな北陸もあったんだと楽しい気持ちになります。

本を読み終えるとき、読者さんの中で北陸がどんな場所になっているのか。
そう思わせてくれるような素敵なアンソロジーです。
推薦者ごん
推薦ポイント世界観・設定が好き

北陸三県の文学の曼荼羅
北陸三県、福井、石川、富山を描いたアンソロジーです。
読むと三県それぞれに雰囲気が違うのが不思議。故郷の良い話から、思春期、青春、恋愛、SF、オカルト、擬人化と様々なジャンルの話が詰まっているのも魅力です。
作品に自分が感じたことを書かせて頂きました。(自作は除いてあります)

つばめかみぶくろ…自由過ぎるつばめが可愛いです。
旅のきっかけは…こんなふうに北陸のお酒を楽しみたいです。 
私と彼女の過ごした季節…電車の駅のホームの博士に挨拶したくなりました。
そして春を待つ…北陸の冬の家族の暖かさにほっこりしました。
ちょTONTTU旅〜福井県敦賀市〜…県民も心惹かれる紀行文です。
海へ行く…お姉さん、おっとこ前です!
雪と明神…恋する乙女は逞しく、強くですよ!
青と白の町…地域ディスとピアSF。雪のような静かな情感。
海石榴…夢の話の中に小浜の海の匂いを感じました。
ロードムービー…まさに美しく流れる風景が見えるようでした。
古都隠恋慕…三鷹さんが良い味してます(笑)
海を飛ぶ…思春期の狭い世界に息苦しさを感じました。
ザ・ファースト・トラベル…男二人のじゃれあい二人旅が可愛いです。
橋の下で眠る影…北陸の小雨と、冷たい湿気にぴったりのほの暗さにゾクリと。
台風と運休と餃子の話…可愛くて仲の良い列車達。餃子と豚汁が食べたいです!
おばあちゃんとじろあめ…おばあちゃんの優しさに飴の甘さがしっくりきます。
金色の雪…鮮やかで情緒たっぷりの石川の風景。
青い光をつなぐと星座になる気がした…じゃりじゃりするんだ…。三人の関係が面白いです。
富山河川擬人化・少し遠出の高岡美術館編…最後の神通さんの言葉が藤子ファンとしてとても嬉しかったです。
そして、私は地獄へと来た…地域密着オカルトアクション。センポク様好き。
たまに帰る田舎のこと…お母さんの家の不思議な「お宮さん」の話が面白いです。
蜃気楼…富山の四季の景色が様々な思いと共に。最後の句が好きです。
Memory of The Gate…複雑に時の流れが変わるのに、面白くて、すいすい読めました。
さよならミラージュ…「三年間、ありがとう」良い言葉ですね。
推薦者いぐあな
推薦ポイント世界観・設定が好き

北陸の魅力をあなたにも
北陸三県をテーマにしたアンソロジーが発行される。このことを知ったとき、富山県のとある町、まさに北陸出身の私はまず、思った。

えっ、なにもないよ? ただの田舎だよ? 需要、あるの?

たいへんに失礼なやつである。跳び蹴りを食らわされても何も文句は言えない。

しかし、ご縁があって寄稿させていただくことになり、故郷をテーマにみんなで作品を作るということはこんなにも楽しいものなのかというものを身をもって知った。同じように北陸をテーマに作品を書く方――それは北陸に縁のある方、北陸に関心がある方である――がこんなにたくさんいる! ということは、ひたすらに故郷を心の底でディスり倒してきた私には新鮮な発見であり、不思議でもあり、なにより、とても嬉しかった。どんなものが読めるのだろう、どんな景色が見えるのだろうとお目見えがずっと待ち遠しかった。

そして、満を持して発行されたこの『ホクリクマンダラ』。主宰から一冊受け取り、電車の中で夢中で読んだ。本を閉じたとき、私は北陸三県がいかに、いかに多種多様で魅力あふれる場所なのか全く理解していなかったということに気づいたのである。寄稿された方々それぞれの中に、それぞれの想いでもって北陸という地が息づいている。それは小説、エッセイ、紀行文、短歌、イラストという形で、私たちに北陸の魅力を語りかけてくる。海へ向かってドライブしたり、ふらりと旅行に来てみたり、真夜中にホタルイカを見に行ったり、川や列車が擬人化されたり、ここに列挙するだけでもバリエーションが豊富で、もちろん、それだけではない。珠玉の作品たちが集まっている。ぜひ、お気に入りの作品を見つけていただきたいと同時に、ぜひ、北陸の地への旅のお供にこの本を連れて行ってほしいと思う。
推薦者きりちひろ
推薦ポイント世界観・設定が好き