尼崎文学だらけ
ブース June1
午前三時の猫
タイトル 俺以外イケメンのおしらせ
著者 壬生キヨム
価格 100円
カテゴリ JUNE
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紹介文
「よくないおしらせ」スピンオフ。
独立した話なので本編を読んでいない方でもお楽しみいただけます。
雰囲気お試し版としてどうぞー。

しっかりものの長男と、ブラコン(弟コンプレックス)で坊ちゃん育ちの次男と、クールなイケメン三男(長男と三男が「よくないおしらせ」に登場しています)。両親の再婚で、大人になってから兄弟になった三人が親睦を深めるためにぶらり温泉旅行に行く話と、朝雛雅人のおうちに「コネコビト」がやってきたパラレル設定の話の二本立て。

 子どもの頃の記憶はあまりないが、弟が欲しい、と母に言った次の日に、母がいなくなったのはよく覚えている。弟がいたらいいな、と思った。一緒にゲームが出来る、仲の良い、かわいい弟が。けれど、母と引き換えに欲しいとまでは思っていなかった。
引き換えたわけではない。ふたつとも失った。

 だから、俺にとって弟というものはある意味でとてつもない貴重で、ぜいたくなものだった。同級生に弟がいると聞けば、それだけで俺よりも上の存在だと思っていたし、弟という立場の同級生はもはや神から祝福を受けた存在に感じていた。そして小学生くらいだと、まだ新しく弟が生まれる同級生がいた。誰彼の家に赤ちゃんが生まれたんだって、弟が出来たんだって、という話を聞くと絶望した。自分に決して与えられないものが、おんなじ小学生のあいつには与えられる。
売っているものならたいていは買ってもらえた。祖母は俺をよく百貨店に連れて行き、なんでもほしいものを買ってあげる、と言ってくれた。しかし俺はたいていの場合強く欲しいと思うものを選べなかった。けれど何もほしくないと言っても祖母の方が困ることを察していて、欲しいものを探すことに苦労した。迷っているそぶりを見せながらおもちゃ売り場を歩き、しかし決して自分には手に入れられない、その資格がないものごとがあることを感じていた。何故かそういうとき、祖母は鉄道をねだられるほうが嬉しいだろうな、と感じて、本当は恐竜のほうが好きだったけれど、たいして欲しくもないビルと電車のジオラマを買ってもらったりした。
 母を許すことはそれほど簡単ではなかった。けれど、その痛みを忘れかけた頃、なんと弟ができることになった。大学二年生のときだった。

 言い忘れたが、弟もできたけど兄もできた。再婚相手には男の兄弟がいて、俺より年上と年下だった。つまり、朝雛グループの嫡男として大切に育てられ、唯一無二の存在だった俺こと朝雛進一は、今日から急に、三人の息子の中の一人、となった。しかも二番目。