尼崎文学だらけ
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タイトル Beyond the Cloudy Glass
著者 詩架
価格 300円
カテゴリ 恋愛
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紹介文
"曇り硝子の向こうには?"
止まっていた時間や足踏みしていた自意識から、踏み出す人たちの話。美少年と色男(水無瀬)、自意識こじらせ女子とハンサム美女(容)が出ます。水無瀬と容それぞれ違う話ですが、巻末のオマケ掌編は、二人して同じ書き出しで始めてみました。
2015大阪文フリ新刊、かつ現時点での最新刊です。

 白い壁紙には、壁に手をついて歩くせいで鞄が擦れて色移りした、掠れた黒の一本線が延びている。朝、靴を履くときには気をつけようと思うのだけど、帰宅する頃にはよれよれで、とにかく何かに寄り掛かりたい、彼氏じゃないなら壁でいいから、とずるずる線を延長してしまう。性別男と住んでいてもアレは主婦に近い。今も奥のダイニングから、にこにこ缶を振っている。
「おかえりー美雨さん、今夜は鯵だよ」
「ビールを振るなビールを」
 智久は大学の後輩だ。後輩と住んでいると言うと必ず、えっ彼氏じゃなくて?! 何もないわけ?! と詰問されるけれど、何もなかったわけではなくて、大学時代には何度か寝た。可愛げがあり清潔そうな智久は、みんなのペットみたいなポジションで、部室に寝ていればお菓子を与えられ、試験前だと眉を下げればノートを貸し出され、キャンパスライフを謳歌していた。甘えてばかりではなく甘やかすのも上手だった。誰かが落ち込んでいるとき傍らに智久をよく見かけた。私は、片思いしていた男友達が新入生と早々にデキちゃった飲み会の帰り、送りますよ、と手を握られたのだった。
ーー容「鏡の向こうの、その先の」

 キャンドルに火を灯したら、さあ、夜の始まりの合図。手を伸ばす、これは駆け引きなしに。引き寄せ、引き寄せられるままに、口づける。この唇が触れていない場所なんてたぶんない。骨の浮いた、薄い皮膚が好き。もっとして。もっと感じて。指を舐める。煙草の匂いの染みついた苦い指先。知っている? たぶんあなたの身体でいちばん苦いところが右手のこの二本の指だって。あなたはその指で僕を翻弄する、いつでも、いつだって、唇にそっと押し当てて、言葉を封じて、意味のない鳴き声しか紡げないように、快楽をひきずり出して。
 僕の駆け引きは単純。ぜんぶ拒まない。いつか首を絞められたこともあった、あのときあなたは手を緩めたけれど、そのまま息絶えたってよかった。だってあなたのもたらすものは、ぜんぶきもちいい、すごく。あなたに僕を害することはできない。だって僕はすべて許容するもの。あなたにされて嫌なことなんて、ひとつもない。ねえ、これってアイって言うの?
ーー「LOVE NEST」水無瀬


手を引かれるままに誘われる、「視界」を飛び越えたその先の世界
登場人物の視点に入り込んで、カメラの瞳になってぐんぐんと物語世界に入り込んでいくかのような、切り開かれた視界のその先へと誘われる連作二篇で構成される一冊。

容さん
鏡の向こうの、その先の
Beyond the cloudy glass

サバサバ系美人(中身はキュート)な美雨さん、同居人のハイスペックなのにいまひとつ頼りない智久くん、美雨さんの同僚のキラキラキュート女子まゆりちゃん(内面は智久くんよりもイケメン)
まゆりちゃんが加わったことでふたりのどこかいびつな関係は視界が開き、新しい場所へと進み始める。
テンポのよくセンス溢れる会話と流れるような小気味良い文章はハイセンスなドラマを見ているよう。くるくると視点を移動しながらつづられる彼ら三人のおかしくていとおしい関係性をずっと眺めていたくなります。


水無瀬さん
Love nest,Polestar,Never Ever

BLです! とは著者である水無瀬さんの談。確かにBLなんだけど僕の知ってるBLと違う!笑
「彼」の視点が映し出す「アイ」のやり取りは濃密でうっとりするほど官能的。言葉の魔法に溶かされ、息を吐く一時すら忘れさせてしまうほどにスリリング。
パズルのピースが噛み合うように、バラバラだった星と星を結んで大空に星座を描くように、「彼ら」の描く軌跡が繋がりあった末に見えた絵にハッとさせられます。
ここにあるのは、触れ合ったその先から伝う愛のありか。


不思議な高揚感と魔法がするするとこちらを捉えて離さない、ふわふわと浮遊するような読後感。
さて、これで推薦文になっているのかというのがとても情けないやらお恥ずかしいやらなのですが、読んで、そして、体感して! としか言えないのです。
新しい視界を手に入れられるような魅惑の読書体験をあなたにも。
推薦者高梨來
推薦ポイント表現・描写が好き