|
|||||||||||||||||
白い壁紙には、壁に手をついて歩くせいで鞄が擦れて色移りした、掠れた黒の一本線が延びている。朝、靴を履くときには気をつけようと思うのだけど、帰宅する頃にはよれよれで、とにかく何かに寄り掛かりたい、彼氏じゃないなら壁でいいから、とずるずる線を延長してしまう。性別男と住んでいてもアレは主婦に近い。今も奥のダイニングから、にこにこ缶を振っている。 |
| ||||||||||
登場人物の視点に入り込んで、カメラの瞳になってぐんぐんと物語世界に入り込んでいくかのような、切り開かれた視界のその先へと誘われる連作二篇で構成される一冊。 容さん 鏡の向こうの、その先の Beyond the cloudy glass サバサバ系美人(中身はキュート)な美雨さん、同居人のハイスペックなのにいまひとつ頼りない智久くん、美雨さんの同僚のキラキラキュート女子まゆりちゃん(内面は智久くんよりもイケメン) まゆりちゃんが加わったことでふたりのどこかいびつな関係は視界が開き、新しい場所へと進み始める。 テンポのよくセンス溢れる会話と流れるような小気味良い文章はハイセンスなドラマを見ているよう。くるくると視点を移動しながらつづられる彼ら三人のおかしくていとおしい関係性をずっと眺めていたくなります。 水無瀬さん Love nest,Polestar,Never Ever BLです! とは著者である水無瀬さんの談。確かにBLなんだけど僕の知ってるBLと違う!笑 「彼」の視点が映し出す「アイ」のやり取りは濃密でうっとりするほど官能的。言葉の魔法に溶かされ、息を吐く一時すら忘れさせてしまうほどにスリリング。 パズルのピースが噛み合うように、バラバラだった星と星を結んで大空に星座を描くように、「彼ら」の描く軌跡が繋がりあった末に見えた絵にハッとさせられます。 ここにあるのは、触れ合ったその先から伝う愛のありか。 不思議な高揚感と魔法がするするとこちらを捉えて離さない、ふわふわと浮遊するような読後感。 さて、これで推薦文になっているのかというのがとても情けないやらお恥ずかしいやらなのですが、読んで、そして、体感して! としか言えないのです。 新しい視界を手に入れられるような魅惑の読書体験をあなたにも。 | ||||||||||
推薦者 | 高梨來 | |||||||||
推薦ポイント | 表現・描写が好き |