『1LDKプラネット』 七年あれば、何か激変するには十分だ。小学生は卒業して中学生になるし、蝉は眠りから醒めて地上にあがってくる。長く続いた戦争が終戦することもある。十八歳だったぼくらはことし二十五歳になった。志津香の体重はニ十キロ落ち、腫れぼったかった瞼は隠れていた二重線を表に出した。一年で約三キロずつ脂肪を失っていった体は余分なものが落ち、とても美しくなった。内気だった少女はだんだん横柄な態度を取るようになり、一途だった彼女は浮気なこころを持つようになった。そしてぼくは、どうやったら志津香を殺すことができるんだろうと考えるようになった。
『イミテーションズブルー』
こんなに近くにいるのにわたしたちはとても遠い。その感傷に浸るのがとても好きだ。小学生から高校生になったいままで、わたしたちは一緒に居すぎなかった。クラスで一番陽のあたるところにいるあすかと、一番陽のあたらないところにいるわたしでは不釣り合いなのは承知していて、わたしたちが付き合っていることを誰かに明かしたことはない。ふたりだけの秘密。あすかがほかのひとに笑いかけているのを見ると胸が苦しくなる。その針が刺さったような痛みがいつも嬉しい。でもむかしみたいにあすかのことを男扱いするひとはいなくなった。 変わらないでと願う。だけどあすかは年々、わたしがびっくりするほど美しい女性になっていっている。
『シーアネモネ』 きみの瞳を見ているとき、ぼくのこころは波打つことをやめる。鏡の中のなかのじぶんを見ているような、そんな気持ちになるから。だけどきみがぼくの名を呼ぶと、ぼくの心臓は高く跳ねる。骨格が似ていると声も似てくるらしいが、きみの声はぼくよりも少し子供っぽくて声変わり前の名残がある。ほかの誰がぼくの名を呼ぶよりも甘く、柔らかい耳触りがある。それはきみの滑舌のせいか、この世界の誰よりもぼくがきみのことを大事に思っているからか、一体どちらなんだろう。
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