尼崎文学だらけ
ブース 企画本部
委託販売
タイトル ぼくたちのみたそらはきっとつながっている
著者 くまっこ他
価格 1200円
カテゴリ ファンタジー
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紹介文
世界は、いくつもの“まち”で作られている。
世界の“決まり”によって、町と町を行き来できるのは、限られた者だけ。
ほとんどの住人は、生涯を生まれた町のなかで終える。

ーーそんな世界観を共有したシェアワールドで、たくさんの“空想のまち”が生まれました。


14人の作家が織りなす町は彩り豊かで、様々な住人の暮らしがありありと浮かび上がります。
美しい町、悲しい町、長閑な町、厳しい町、優しい町、緊迫した町。
自らの町でひとつの仕事に打ち込む職人、町の日常を愛するひと、町を出る人生を選んだ者……etc、etc

色とりどりの空想のまちと、そこに生まれる物語を、ぜひご堪能ください。


ーーあなたなら、どの町で暮らしたいですか?
ーーあなたなら、どんな“空想のまち”を描きますか?

「雪の壁がね、町を囲んでいるんですよ」
 青年はその光景を思い出しているのか、空を仰いでうっとりと言った。
「雪の壁というと、大きい氷のようなものですか?」
「うーん、少し違いますね……。雪というのは、白いんです。氷を細かく削ると、削った氷は白く見えますよね?  ああいう感じです」
 根本的な質問をしてもいいですか、と僕が言うと、青年は「どうぞ」と促す。
「どうして雪は溶けずに町に残るんですか?」
 僕の経験上……というか常識的にも、削った氷はすぐに溶けてしまう。それが、溶けずに道端に蓄積されるという現象が想像できなかった。僕が生まれ育った町には雪が降ったことがないから、雪というものがそもそも分からない。
 それを聞いて青年は、僕の疑問を得心したかのように微笑むと「溶けない気温なんです」と言った。
「ああ、なるほど気温ですか。ええと、上空で冷やされて雪が作られても、地上が温かいと到達する間に雨になってしまうんですよね?  ということは、雪町は常に雪が溶けないほどの、低い気温を保っている町ということか……それは大変だ」
「この町は温かいですから、そう感じるかもしれませんね」
「常に冷蔵室にいるようなものですよね……想像しただけで凍えそうです」
「大丈夫ですよ。寒さに慣れていない訪問者には、生地に綿が埋め込まれた布団のような服が貸し出されますから。それさえ着ていれば凍えません」
「布団を着て歩く?  それは温かそうですが……」
 想像力がとうとう音を上げそうだ、と僕が呟くと青年は、あははと声を立てて笑った。

 僕の暮らすここ地理町は、暖かい気候の町だ。
 これといって目立った特産物はないけれど、町の中心部に地理院という大きな施設がある。地理院の仕事は土地の測量と地図の生成が主だけれど、なかには地理学を応用した気象予知や自然災害を研究する部屋もあり、稀に町外から見学者が来ていた。
 今日の客人も、そのうちの一人だ。
「滞在中は、この部屋を自由に使ってください」
 雪町を見たことがあるという青年の話が面白くて、夕食後にお茶を飲みながら歓談していたら、いつのまにか夜が更けていた。急いで茶器を下げ、客室へ案内する。青年は部屋を見るなり、驚きの声を上げた。


     ***「世界地図(くまっこ)」冒頭より***


もし僕らのことばがウィスキーであったなら
 この本の中には沢山の町が出てきて、とても全ては語れないので、一番大好きな「音町」を紹介します。でもこれ、絶対ネタバレしちゃいけない話なんですよ。見事な結末を持ったストーリーを、結末を隠して説明する。出来るかな(ドキドキ)
 まりもさんの「楢の薫り、楓の音」という作品。本の最初に収録されています。

 楽器の製作を生業とする「音町」 楽器職人であるエレンは「酒町」の人々のためにバイオリンを作っている。音町の人々と違って、酒町の人たちは楽器を大事にしない。外で演奏したり、上にお酒をひっくり返したり。そして酒町の人が求める音色は、音町のそれとはずいぶん違っているらしい。
 他の町に行くことは難しいので、彼らの音楽を聴くことは出来ない。楽器を修理する時の注文や、音町と酒町を行き来する運び人の話から、ぼんやりと酒町の音楽が浮かび上がってくる。
 賑やかに酒を飲みながら、楽しく早いテンポで踊るのにぴったりな。

 美しく上品な音楽こそ素晴らしいと信じている音町の人々は、酒町の人々をあまり良く思っていない。それでもエレンは酒町の人々と音楽に惹かれている。酒町の仕事なんてやめるべきだという忠告も、プロポーズも断って、酒町のためのバイオリンを作り続ける。そして。
 思い出すだけで涙がじんわりにじんでくる、あの結末。
 決して悲しみの涙ではない、ということくらいは伝えても良いだろう。

 直接会うことの出来ない人々を思い、触れることの出来ない何かに憧れる。
「まるで私たちみたい」
 そんな風に思いませんか?
推薦者柳屋文芸堂
推薦ポイント世界観・設定が好き

幾重にも 無数にも つながり、ひろがる 《まち》のおはなし
 人々が、己の生まれた《まち》で生涯を過ごすことを定められた世界を舞台に、それぞれの《まち》の物語が綴られたアンソロジーです。幻想的なテーマもとに、各執筆者様がそれぞれの個性を発揮され、魅力的な物語がたっぷりと詰め込まれています! そのたっぷりさ加減と言ったら、がっつり厚みに表れています…これ青年誌のコミックスくらいあるね、うん…。

 なのにすごく読みやすくて、一週間ほどであっという間に読み終えてしまいました。本編は勿論、可愛らしい装丁や、主宰者・くまっこ様お手製のブックケースと栞がついてくるなど、随所にあたたかな気持ちのこもった一冊です。

 自らの《まち》を愛してその中で懸命に生きる人たちがいる一方で、《まち》から出ようと画策する人もいる。《まち》を出ることは叶わないけど、別の《まち》にいる人と掛け替えのない絆を築いてそれを大事にする人もいる。《まち》という制限があるからこそ、そこに暮らす人々の在り方がより如実に描写されています。ぜひお手にとって、お気に入りの《まち》を探してみてください。そしてあなたもぜひ自分だけの《空想のまち》を作ってみてくださいね。
推薦者世津路 章
推薦ポイントとにかく好き

象印社のくまっこさんが主催された、「空想のまち」をテーマにした、アンソロジー本です。
本体もすてきなんですが、特筆すべきはやっぱり外箱…!!手作りの箱がすごいんですっ(感涙)
箱が丸くくりぬかれていて、そこから表紙イラストの女子がこっちをチラッと見ている感じが絶妙で!!
狙ってたんでしょうか、このデザイン。それとも、できたイラストから箱のデザインを決めたのかな?
どっちにしても、素晴らしいです〜!!!
栞を付けてくださったのもすごくありがたかったです。自立するぐらい分厚い本なので。


この本には「空想のまち」というキーワードに加え、そのまちが存在する「世界」を参加者皆で
共有するという、独特のルールがあります。それは、「人々は生まれた町に守られて、その中で
生涯を暮らす」「他の町へ行くバスに乗るには、法外なお金がかかる」「限られた少数の人々が
町と町を行き来し、それぞれの町は細々と交流をしている」といったものです。このルールの中で、
参加者はそれぞれの「まち」を作っています。
最初にこの企画を聞いた時にはどんな本に仕上がるのか想像できませんでしたが、蓋を開けてみると、
他にはない面白い本になったなぁとびっくりしました。
このアンソロジーには14人の書き手が参加していて、それぞれの町は参加者各人の個性で書かれて
いるのに、全部読んでみると不思議な一体感を感じます。たとえて言うなら、一冊読んでしまうと、
まるで一つの世界をぐるっと一回りしたような充実感を得られるというか。それは、この本を作るに
当たって決められたルールを皆が共有しているからなのだろうな、と思いました。
それぞれが自由に書いているのに、どこか繋がっている。そこが、ひとつひとつの作品が持つ力の上に、
更なる魅力を付与してくれています。
くまっこさんが作品タイトルに「ぼくたちのみたそらは きっとつながっている」という言葉を選ばれた
わけが、読んでみてすごく分かるような気がしました。

あっ、ちなみに。
必ずしも掲載順に読む必要はないと思うのですが、一番最後に載っているくまっこさんの
作品だけは、最後にお読みになるのをお勧めします^^
そのほうが絶対に味わい深くなると思いますよ…!!



推薦者まりも
推薦ポイント世界観・設定が好き

あなただけの空想のまちを思い描いてみてください
「世界は幾つもの《まち》でできている」という世界観を共有し、参加者それぞれが独自の《まち》を空想して書いた、シェアワールド的なアンソロジー。

音町、蛍町、箪笥町、砂町、本町、夜町、星町、雨町、星見町、宙町、湯町、墨町、幡町、地理町……登場するまちには、それぞれルールがあります。そのル?ルは、まちの歴史や在り方と密接に関わっています。その中で生きる人々は、大抵はまちの在り方に沿って生きているのですが、そこからほんのすこし踏み出してしまったり、わざと出ていったりする人もいて、まちと人との在り方・関わり方が、どの物語でもきらきらと光っていました。

そして、本を読み終えて思ったことは、ここに書かれたまち以外にも、まだまだたくさんのまちがあるのだということ。本はここで終わるけれど、まちと同じように、あるいはその数だけ、物語もあるのだということ。
自然と、ほかにもこんなまちがあったらいいなぁという気持ちが浮かんできました。そんな風に、きっと、読んだ人の心に、新たなるまちを思い描かせてくれるアンソロジー。ぜひ読んで、あなただけの空想のまちを思い描いてみてほしいです。

最後に、このアンソロジーには手製のブックケースがついているのですが、本を宝箱にしまうような気持ちにさせてくれる、とても素敵なアイテムです。 本を大事にしたい、大切にしたい、そんな気持ちが感じられて、とてもうれしくなります。
推薦者なな
推薦ポイントとにかく好き