「マーティン……、」 鈍く痛む身体を横たえたまま、ぎゅうぎゅうと抱きつく力を強める。少しだけ欲望の気配を忍ばせたみたいなやわらかな手つきで背中をなぞられると、きゅうっと胸の奥があまく痺れるような心地に襲われる。 「あのね、カイ。さっき気づいたんだけど……いい?」 「なあに?」 囁くような甘い声に誘われるまま、少し潤んだ瞳でじいっと恋人の顔を見つめる。大好きなあの、どこか悪戯めいた響きで告げられるのは、こんなひとことだ。 「ベッドなんだけど」 指さされたその先には、ぴんとしわ一つない状態でシーツを張られたままのもうひとつのベッドがその姿を露わにしている。 「……ちょっと気まずいよね、あれじゃ」 くすくすと照れ笑い混じりに告げられる言葉に、たちまちにかあっとみるみるうちに顔が熱く火照らされてしまう。 「よし、」 かけ声みたいなそんな言葉と共に、ひらりと弾みをつけるようにしてベッドを降りた彼は、たちまちにぴんと張ったシーツを引きずり出すようにして、こてんとその上に寝ころんで寝返りをうつような仕草をとって見せる。 「ほら、カイも見てるだけじゃなくて手伝って?」 誘われるままに手を握られ、シーツにくるまるようにしながらふたりでじゃれあうみたいに転がりあう。そのあいだも、何度も離れそうになる身体を引き寄せあうみたいに繰り返し繰り返し抱きしめあって、かすかに触れるだけのキスを交わす。 ほら、大丈夫。なにも怖がらなくなんていい。こんなにも愛してる、こんなにもいとおしい。ただそれだけだから。 「もうじゅうぶんくしゃくしゃになったよ、ね?」 「ううん、まだ足りない」 ふざけあいながら、子どもに戻ったみたいな無邪気さでうんとやさしく笑いあう。 身体の奥はくすぶった熱の余韻でじんじんと痛んで、泣きはらした瞼は鈍く腫れて、心ごとぐらぐら揺さぶられるみたいで、あんなに苦しくていとおしくてぺしゃんこに潰れてしまいそうなほどに求め合った時間がほんの数時間前の出来事だなんて、おおよそ信じられなくて。 三年ぶんの空白も、それらを埋め合うように求め合った時間のいびつさも――そのすべてが、あたたかな光に包まれておだやかに溶けていく。
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