木と木が擦れるようなゴリゴリとした重い音が聞こえた。きっと閂でも抜いているのだろう。厳重に閉じ込められていたことを感じ心が弾む。 嬉しい。すっかり忘れ去られているのかと不安に思っていたけれど、私は大切な生贄。私がチコリの兄弟たちを心から求めたように、まだ見ぬ「死」がこんなにも私を求めている。 ゆっくりと扉が開く音がした。ずっと待ちわびていた瞬間。髪や衣服を整えることも忘れ、扉の前に立ち尽くす。鼓動が走る。震える。今までこんな風に誰かを待ちわびることなど一度だってなかった。一度も? 考えようとする私の思考を遮るように細く光。 怖い。ううん、嬉しい。 もしかしたならこれは恋とやらに似ているのかもしれない。私は待っていた。焦がれ、待ちわび夢想していた。喰われて絶えるその瞬間を。 やがて観音開きの扉を完全に開け放ち、「死」は悠然と私の前に立ちはだかる。見上げる。息を飲む。 その姿は想像していた以上に恐ろしいものではなかった。顔は獣のように見えるがどうやら二足で歩いているように見えた。外套で隠された体までは見えない。大きい。これならば満足な死を与えてくれるだろうと私は安堵していた。 どんな喰われ方だって耐えてみせるけれど、この大きな口なら、ちらりと見える鋭い牙なら、きっと余計な苦しみを感じる間もなく終わるだろう。安心して目を閉じる。いつでもあなたのお好きなときに、どうぞおいしく召し上がれ。 近づく気配。生々しい獣の臭い。私の左側を体温が通り過ぎる。通り過ぎた。背中からなのねと思い背筋をぴっと伸ばす。食べる作法も様々なのだろう。その息づかいが私の首筋を温めるのを待っている。 やがてむしゃりと音がした。
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