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タイトル 七都・4
著者 桜沢麗奈
価格 700円
カテゴリ ファンタジー
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紹介文
*2009年度アルファポリス ファンタジーノベル大賞最終選考作品*
動乱の時代に生まれ、革命に身を投じた少女達の友情、恋愛、成長を描く、架空革命少女小説。

第五章:
七都の心のゆらぎに気づく群青。
煌に心惹かれていることを自覚し、その上で群青を選ぶことに決めた七都。
傷心の癒えない聖羅をやさしく見まもる尚釉。
それぞれの選択。その先に流れる穏やかで幸福な時間。
そして嵐が訪れる。来るべき時が来た。

「おまえがいるからだ」
 七都が思わず絶句する。
「戦場に、おまえがいるからだ」
 茫然としたまま、七都が首を振った。
「それなら今あたしを殺して」
 何度も何度も首を振りながら。ぼろぼろとこぼれる涙が七都の頬を濡らす。
「今すぐあたしを殺して、もうこんなことは終わりにして……!」
 煌に腕を掴まれたまま、七都の膝ががくりと砕けた。
「嫌だ」
 ずるずるとその場に座り込む七都を見下ろして。煌が言う。
「おまえを世界から失って穿たれる空白を耐える馬鹿馬鹿しさ。そんなものはいらない」
 七都は何も答えられず、ただ涙に濡れた大きな瞳で煌を見上げていた。煌が、七都の腕を引きずりあげるようにして掴む。
「俺と来い」
 ふたたび誘いを掛けると、七都は激しく首を振った。
「行かない。絶対に行かない……!」
 そう叫び、泣きじゃくる七都の、恋人を失ってきずついている様は、ひどく愛おしいものに煌の目にはうつった。その傷を癒すのは自分であるべきだと煌は決めていた。もう二度と、他の男などその視界に入れさせるものか。
「あの男はもういない。おまえのことは俺がまもってやる」
 自分を拒絶して暴れる七都の腕を掴み、引きずるが如く強引に、自分の胸に抱き寄せる。
「俺を見ていたいだろう。俺を世界から失いたくないだろう。違うのか」
「違う……!」
 七都は激しく首を振って否定する。
「群青、群青っ、いやあっ……!」
 煌が、暴れる七都を抱き上げて馬に乗ろうとした、そのときだった。
 黒い疾風の、刃が。空を切り煌を襲う。
 煌でさえ一瞬血の気が引いた、それ程の殺気を纏った一撃が。
「七都を離しなさい……!」
 聖羅だった。
 凄まじい勢いに載せた一閃。七都を抱えていた手を離して、煌が辛うじてその刃から逃れた。それでもほんのわずか切っ先が掠めただけの、頬から鮮血が飛び散る。
「ちっ……」
 煌が舌打ちをし、太刀を抜く。が、聖羅の力任せの激しい攻撃が間髪入れず襲い来る。さすがの煌も、それを全力で受け止めざるを得なかった。そのあまりの勢いに圧されて、漸く手に入れたと思った、七都のことを見るどころではない。その聖羅の様子に、思わず煌は目の前の人物が本当に、自分の知る聖羅本人であるのかと疑った。


《少女》を胸に秘める貴女へ 気高き光を放つ浪漫革命譚
 恥ずかしながら、これまで《少女小説》のなんたるかを私は存じ上げませんでした。少女、と呼ばれるような時期に触れる機会を持たなかったのです。それがあるご縁でこの『七都』を拝読した時、鮮烈に理解しました。苛酷で、熾烈な運命を気高く生きる少女たちの生き様――これぞまさしく、《少女小説》であると。
 舞台は厳粛たる身分制度の敷かれた世界。第七都と銘打たれたその街は最下層の民が住まう場所と定められ、支配者たちの領域・第一都を始めとする上位階級者たちから奴隷のような扱いを受けています。その第七都 を解放しようと立ち上がる革命軍――レジスタンスと第一都の軍が争いを繰り広げる、そういう時代に生を受けた英七都(はなぶさ ななと)がこの物語の主人公です。
 七都の母はレジスタンスを導く勝利の女神・英凛々子。しかし凛々子は第一都の残酷なる赤将軍の手により、戦場に命を散らします。父も既に亡く、唯一残された家族である姉の優花も第一都の男にかどわかされ、七都は天涯孤独の身に。相次ぎ家族を喪った悲歎と、自らより革命に命を捧げた母に対する激憤、相克する情動に心身を苛まれた七都に手を差し伸べたのは、謎多きシスター・聖羅でした。ふたりは次第に心深く絆を結び合うのですが、その間に存在した因果は彼女たちを非情な運命に誘うのです。
 繊細な心情描写、幾重に も絡み合う人間関係、その中で交わされる恋情、慈愛、思慕、嫉妬、憐憫、絶望、希望――数えきれないほどの生の心情。激動の時代に生まれ、その中を駆け抜けなければならなかった彼女たちの生命が、ありありと目に浮かぶほどの現実味を持って描かれています。
 母への複雑な想いを昇華させ、自らもレジスタンスの一員となることを選ぶ七都。その彼女を護ることを存在意義と定めながら、秘めた過去の重責に葛藤する聖羅。身分のために受ける屈辱に晒されながらも、凛然と生きる優花。少女たちの意志と覚悟、その生き様は息を呑むほど凄絶です。その周囲を彩る男性陣も個性的で、魅力に輝いています。
 戦乱の世に力強く生きる彼女たちの姿に自然と感情移入し、そのしあわせを切に願わずに はいられない――そんな熱量を持った圧巻の《少女小説》、それが『七都』です。
 全五巻中第四巻までが発行済み、最終巻が今秋リリースの予定。このドラマチックな少女浪漫革命譚の結末を、ぜひお見逃しなく!
推薦者世津路章
推薦ポイント人物・キャラが好き