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タイトル 七都・3
著者 桜沢麗奈
価格 1000円
カテゴリ ファンタジー
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紹介文
*2009年度アルファポリス ファンタジーノベル大賞最終選考作品*
動乱の時代に生まれ、革命に身を投じた少女達の友情、恋愛、成長を描く、架空革命少女小説。

第四章:
煌のことが忘れられない、そんな自分に戸惑う七都。
偶然群青の秘密を知ることになった聖羅。
そして未だ七都が魔女への憎しみを募らせていることを知った聖羅は、自分の過去が知られることを恐れ七都に背を向ける。けれどその選択は、結果的に聖羅自身を追いつめていっただけだった。

幕間:
群青がまだルシアンにいた頃。リディリークと呼ばれていた時代の話。
ヴァレリがリディリークの頭を抱える手にわずかに力を込めた。
「生きるために殺せ、リディリーク。おまえの所為じゃない、夜を生きる、この国は、獣の世界なんだ」

 聖羅は戦場に紅雅の姿を見つけた。紅雅、と、思わずその名を、縋るが如くに呼びそうになり。けれど次の瞬間息を飲んだ。彼と剣を交えるその相手を見て。
「七都……?」
 茫然と、剣を交えるふたりを見つめる聖羅の、胸に去来したのは、長い時を共に過ごした、紅雅との記憶だった。
 それは光。
 はじめて見た光だった。生まれ落ちたその瞬間に、向けられる筈だった愛情のすべてを奪われた、その自分にはじめて降り注いだ光。かつて全霊を傾けて、何物にも代え難く、大切に思ったもの。
 耳のうちに蘇るのは、彼が自分の名を呼ぶその声。かつて自分は大切に思うものをなにひとつとして持っていなかった。『聖羅』と、彼が呼ぶから、この名を愛しく思った。そして彼に呼ばれる自分は、多少なりともこの世界に存在する価値があるのだと思えた。
 幼い日の記憶は、つめたくて暗い、それこそ思い出す価値など一片も見いだせないようなものであったけれど、それでも彼がいたから、捨て去ることをしなかった。母に刻まれた深い傷はいつだって、紅雅が暖かく癒してくれた。
 今でも思い出す。見たこともないような激しさで、彼が蓉子を床に引き倒し怒鳴りつけたあの日のこと。これ以上聖羅をきずつけることは絶対にゆるさない、と。
 そして走馬燈のように胸を走るのが、七都と過ごしたその日々のことではなくて、紅雅との思い出であったことが、聖羅にその選択をさせたのだった。
 自らの手で破壊する、その想いがどちらであるのかを。聖羅ははっきりと悟ったのだ。
 聖羅はゆらりと立ち上がった。
 体温はもう感じない。自らを温める血も通わない。身を苛んでいた痛みも遠ざかった。
 心の中は、凛然とすきとおる氷のように、透明だった。
 視界を歪めるどんな不純なものも混じり得ない。
 厚い雲の垂れ籠めた空から降りしきる、雨は急激にその雨足を速くして。灰色に染め上げられた世界が色を失う。
 聖羅は刀を投げ捨てて、ロング・ドーンをホルダーから抜いた。
 身に負った傷、そして熱と重なる疲労に集中力も切れかけていた。両手でロング・ドーンを構えたが、視界は霞み、銃を持つ手は震えて、照準が定まらない。右手の指輪がかちりと銃身にぶつかり、小さな音を立てる。それでも気力を振り絞り、聖羅は、狙いを定めひきがねを引いた。


《少女》を胸に秘める貴女へ 気高き光を放つ浪漫革命譚
 恥ずかしながら、これまで《少女小説》のなんたるかを私は存じ上げませんでした。少女、と呼ばれるような時期に触れる機会を持たなかったのです。それがあるご縁でこの『七都』を拝読した時、鮮烈に理解しました。苛酷で、熾烈な運命を気高く生きる少女たちの生き様――これぞまさしく、《少女小説》であると。
 舞台は厳粛たる身分制度の敷かれた世界。第七都と銘打たれたその街は最下層の民が住まう場所と定められ、支配者たちの領域・第一都を始めとする上位階級者たちから奴隷のような扱いを受けています。その第七都 を解放しようと立ち上がる革命軍――レジスタンスと第一都の軍が争いを繰り広げる、そういう時代に生を受けた英七都(はなぶさ ななと)がこの物語の主人公です。
 七都の母はレジスタンスを導く勝利の女神・英凛々子。しかし凛々子は第一都の残酷なる赤将軍の手により、戦場に命を散らします。父も既に亡く、唯一残された家族である姉の優花も第一都の男にかどわかされ、七都は天涯孤独の身に。相次ぎ家族を喪った悲歎と、自らより革命に命を捧げた母に対する激憤、相克する情動に心身を苛まれた七都に手を差し伸べたのは、謎多きシスター・聖羅でした。ふたりは次第に心深く絆を結び合うのですが、その間に存在した因果は彼女たちを非情な運命に誘うのです。
 繊細な心情描写、幾重に も絡み合う人間関係、その中で交わされる恋情、慈愛、思慕、嫉妬、憐憫、絶望、希望――数えきれないほどの生の心情。激動の時代に生まれ、その中を駆け抜けなければならなかった彼女たちの生命が、ありありと目に浮かぶほどの現実味を持って描かれています。
 母への複雑な想いを昇華させ、自らもレジスタンスの一員となることを選ぶ七都。その彼女を護ることを存在意義と定めながら、秘めた過去の重責に葛藤する聖羅。身分のために受ける屈辱に晒されながらも、凛然と生きる優花。少女たちの意志と覚悟、その生き様は息を呑むほど凄絶です。その周囲を彩る男性陣も個性的で、魅力に輝いています。
 戦乱の世に力強く生きる彼女たちの姿に自然と感情移入し、そのしあわせを切に願わずに はいられない――そんな熱量を持った圧巻の《少女小説》、それが『七都』です。
 全五巻中第四巻までが発行済み、最終巻が今秋リリースの予定。このドラマチックな少女浪漫革命譚の結末を、ぜひお見逃しなく!
推薦者世津路章
推薦ポイント人物・キャラが好き