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タイトル 七都・2
著者 桜沢麗奈
価格 700円
カテゴリ ファンタジー
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紹介文
*2009年度アルファポリス ファンタジーノベル大賞最終選考作品*
動乱の時代に生まれ、革命に身を投じた少女達の友情、恋愛、成長を描く、架空革命少女小説。

第二章:
レジスタンスに身を投じた七都は、迷いを抱えながらも剣を取った。
敵の将軍、煌は執拗に七都を狙い、剣を突きつけて七都に言う。
「おまえは何を望む。欲しいだけのものを与えてやる。第七都での見窄らしい夢など捨てろ、俺と来い!」

第三章:
赤将軍と再び剣を交える七都。
傷を負い倒れた七都を連れ去ろうとする煌の前に、あらわれたのは聖羅。
「――その子を返して」
七都をめぐり、火花を散らす姉弟。

「それがおまえの夢か」
 男が口の端をかすかに上げた。
「俺と来い」
 七都が目を見開いた。一瞬、赤将軍に言われたことばのその意味が理解できなかった。けれど胸が早鐘を打ち、息が詰まる。苦しい。無理矢理に息を吐くと、力が弛んだ顎は未だ戦慄きを止めず、奥歯がぶつかり合い吐息までもが震えた。
「レジスタンスは潰える。俺たちの手によって。おまえにここで出来ることなど何もない。戦場に出て命を懸けてまでくだらない夢など見るな。そのようなものは叶わない」
 赤将軍のその言葉を耳にした瞬間。怖れに畏縮していたはずの七都の胸の中で、激しく火花が散った。
「おまえは何を望む。欲しいだけのものを与えてやる。第七都での見窄らしい夢など捨てろ、俺と来い!」
 胸を焦がすような憤りに、優花のことも、自分の置かれた状況も、すべてのことを一瞬忘れた。思わず男を屹と睨みつけた七都の目が、至近で七都を見下ろす赤将軍の視線を捕らえる。
「何を……!」
 顔のすぐそばに突き立てられた刀が頬につめたく触れた。けれど不思議なほどに、恐ろしいという感情は消え去って、ただ血が沸き立つような思いがあった。熱い。それは怒りだった。いつのまにか震えは止まっていた。
「偉そうに、何でも持っているつもりで、けれど夢を見たこともないのね、可哀想に!」
「何……」
 或いは放言とさえ取れるような七都の言いように、煌の面にかすかな怒りのようなものが走った。
「あたしの夢が叶わない? 何もかも知ったつもりになって、人を見下すのが当然って、そんな顔をしてるくせに何ひとつ知らないの。可哀想なくらいに馬鹿ね。あたしは知ってるわ、本気で望めば、どんなことも叶うってことを!」
 思わず煌が言葉に詰まった。
「あたしの夢は叶う。あなたにわかることなんて何もないわ。一緒になんて行くはずがない、手を離して!」
 七都は力一杯押さえ込まれていた腕を引いた。手首をつかんでいた煌の手を振り払い身を捩り跳ね起きる。そして剣を構えた。
 赤将軍が口の端を歪めて笑んだ。
「……それではおまえのその剣で、確かめてみるがいい」
 煌が地面に突き立てた刀を引き抜き、振り上げた。その時だった。
「七都!」
 聞き覚えのある声がその場に割り込んだ。
「群青……」
 七都を背にかばう位置に群青が立ちふさがり、七都は思わず安堵の息をついていた。緊張が解け、気が弛むのを感じた。
 次の瞬間、群青の剣と赤将軍の刀とが、激しい音を立ててぶつかり合う。


大人には言えない綺麗事を吐くのが少女という生き物
私はどうしてこの作品にこんなに弱いのか。七都が「私は守りたい」と叫ぶたびに涙腺がゆるむ。いつの間にか、七都ではなく聖羅に近い立場にかったのだなあと今更思った。社会運動に関わったことがあると、純粋さが眩しすぎて泣けます。もうこんなこと言えない大人になっちゃったと思いました。

そしてこの作品は母娘の物語なのです。「母に愛された娘」の七都から、「母に愛されなかった聖羅」は期せずして母を奪うことになり、その母に成り代わるように、七都を愛することで、自分を満たそうとする。この母娘の繋がりの環は、愛というか呪いというか……。
母娘は個人を超えて、何代も続く因縁や社会構造の中で、囚われてなんとか愛を探そうとする。私なんかは「でもな、悪いのは大将軍やろ?ものわかりいい父親ヅラしやがって」と怒るわけですが、聖羅は「父の娘」だったわけで、そこから「娘の母」になろうとする。これえぐい話です。

私が「七都」を愛読するのは、社会と繋がりのある作品だからです。個人の想いを超えた、歴史や社会構造のの中でもがく人間の姿が、私は好きです。矛盾や解決不能な問題があるからこそ、答えのない問いを小説は突きつけると思います。
その反面、出てくる男性キャラが、みんな強くてチートなところが、正しく少女小説だと思いました(笑) これはね、お約束ですよね。そこがないと、ただの辛い小説になります。きちんと萌えや甘さやゆるさも残してあるところが、読者にページをめくるモチベーションになっていて、良かったと思います。
推薦者宇野寧湖
推薦ポイント人物・キャラが好き

《少女》を胸に秘める貴女へ 気高き光を放つ浪漫革命譚
 恥ずかしながら、これまで《少女小説》のなんたるかを私は存じ上げませんでした。少女、と呼ばれるような時期に触れる機会を持たなかったのです。それがあるご縁でこの『七都』を拝読した時、鮮烈に理解しました。苛酷で、熾烈な運命を気高く生きる少女たちの生き様――これぞまさしく、《少女小説》であると。
 舞台は厳粛たる身分制度の敷かれた世界。第七都と銘打たれたその街は最下層の民が住まう場所と定められ、支配者たちの領域・第一都を始めとする上位階級者たちから奴隷のような扱いを受けています。その第七都 を解放しようと立ち上がる革命軍――レジスタンスと第一都の軍が争いを繰り広げる、そういう時代に生を受けた英七都(はなぶさ ななと)がこの物語の主人公です。
 七都の母はレジスタンスを導く勝利の女神・英凛々子。しかし凛々子は第一都の残酷なる赤将軍の手により、戦場に命を散らします。父も既に亡く、唯一残された家族である姉の優花も第一都の男にかどわかされ、七都は天涯孤独の身に。相次ぎ家族を喪った悲歎と、自らより革命に命を捧げた母に対する激憤、相克する情動に心身を苛まれた七都に手を差し伸べたのは、謎多きシスター・聖羅でした。ふたりは次第に心深く絆を結び合うのですが、その間に存在した因果は彼女たちを非情な運命に誘うのです。
 繊細な心情描写、幾重に も絡み合う人間関係、その中で交わされる恋情、慈愛、思慕、嫉妬、憐憫、絶望、希望――数えきれないほどの生の心情。激動の時代に生まれ、その中を駆け抜けなければならなかった彼女たちの生命が、ありありと目に浮かぶほどの現実味を持って描かれています。
 母への複雑な想いを昇華させ、自らもレジスタンスの一員となることを選ぶ七都。その彼女を護ることを存在意義と定めながら、秘めた過去の重責に葛藤する聖羅。身分のために受ける屈辱に晒されながらも、凛然と生きる優花。少女たちの意志と覚悟、その生き様は息を呑むほど凄絶です。その周囲を彩る男性陣も個性的で、魅力に輝いています。
 戦乱の世に力強く生きる彼女たちの姿に自然と感情移入し、そのしあわせを切に願わずに はいられない――そんな熱量を持った圧巻の《少女小説》、それが『七都』です。
 全五巻中第四巻までが発行済み、最終巻が今秋リリースの予定。このドラマチックな少女浪漫革命譚の結末を、ぜひお見逃しなく!
推薦者世津路章
推薦ポイント人物・キャラが好き