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タイトル 七都 全巻紹介Sample
著者 桜沢麗奈
価格 無料
カテゴリ ファンタジー
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紹介文
*2009年度アルファポリス ファンタジーノベル大賞最終選考作品*
動乱の時代に生まれ、革命に身を投じた少女達の友情、恋愛、成長を描く、架空革命少女小説。

戦渦の中で母を失い、葛藤を抱えながら反政府勢力のレジスタンスと関わりを深めてゆく十六歳の少女七都は、戦場で強引な誘惑を続ける敵の将軍煌に、反発しながらも惹かれてゆく。

そして秘密を抱えながらも、七都のそばにいたいと願う聖羅との深い友情。その絆はせつないほどに強く、けれど決して明かせぬ罪を負うがゆえに、何処までも儚い。

七都に想いを寄せる異国の青年。
第一都の男に攫われて囚われの身となった美しい姉。
まったく隙を見せなかった聖羅の、表面に見える強さとは裏腹な脆さを見抜いてしまった男。

戦乱の渦中に、いくつもの想いが交錯する。

「七都!」
 遠くどこかで誰かが叫んでいた。
 赤将軍の進むその線上に、七都は立っていた。突風が七都の髪を巻き上げる。危機は迫っていた、けれどどうしてだか、七都はそこから逃げ出す気にならない。
 これが第一都の将軍。
 これが、今自分が、そして第七都の人々が抱える悲しみの、その根源を作り出すものか。
 七都が赤将軍の姿を、恐れのない瞳でまっすぐに見上げた。
 赤将軍の刀が七都の頭上に落ちると、誰もがそう思ったが、そうはならなかった。
 持っている剣を抜くことも、その場から逃げ出すこともせずに、ただ進路を塞ぎ立ちはだかる七都の眼前に、ぴたりと振り下ろした刀を突きつけて。赤将軍が七都を見下ろしていた。
「……おまえのような小娘が、何故戦場にいる?」
 射抜くような鋭い眼光。その奥に見えるのはゆるぎない、自信と自負。第一都赤将軍。まさに、自分こそが王であるのだと。そのことを、色素の薄い、見ようによっては金色にも見える瞳が、ただ当然のこととして語っていた。
 陽に透けると金色に輝く髪が、若い獅子のようだった。
「あたしはただ見に来ただけ。あたしからたくさんのものを奪って、そしてこれからもきっと奪い続けていく、戦とはどんなものなのか」
 少しでも動けばその切っ先が前髪に触れる、それほどの近くに刃を翳されて、けれど未だ七都の心に恐怖という感情は訪れず。平然と赤将軍にそうと言い放つ、自分の声がどこか別の場所から聞こえてくるような気がしていた。感覚が麻痺して、自分は馬鹿になっているのではないかとも思った。
 馬上の男が、面白そうに笑った。
「……去れ。戦場とは、おまえのような子どもの、いるべき場所ではない」
 そう言った男の年齢は、七都とさほど変わるとは思えなかった。
 けれど彼の放つ、強烈な存在感が。誰もが敵いようのない、目も眩むほどのかがやきが、この場を支配しているのが誰なのだかを、明確に物語っていた。
「去れ」
 もう一度七都にそう告げて、赤将軍は、手綱を引いた。
 馬首を変えて疾風のように去りゆく、赤将軍の姿から、どうしてだか七都は目をそらすことができなかった。
 目の前に刀を振り下ろされても恐れを感じなかった、その胸の、鼓動が今はどうしてだか鳴りやまない。それが何故なのかはわからなかった。
 赤将軍の姿が遠ざかり、その場を包んでいた、張りつめた空気が破れる。
 不意に力が抜けて、七都はその場に座り込んだ。


《少女》を胸に秘める貴女へ 気高き光を放つ浪漫革命譚
 恥ずかしながら、これまで《少女小説》のなんたるかを私は存じ上げませんでした。少女、と呼ばれるような時期に触れる機会を持たなかったのです。それがあるご縁でこの『七都』を拝読した時、鮮烈に理解しました。苛酷で、熾烈な運命を気高く生きる少女たちの生き様――これぞまさしく、《少女小説》であると。
 舞台は厳粛たる身分制度の敷かれた世界。第七都と銘打たれたその街は最下層の民が住まう場所と定められ、支配者たちの領域・第一都を始めとする上位階級者たちから奴隷のような扱いを受けています。その第七都 を解放しようと立ち上がる革命軍――レジスタンスと第一都の軍が争いを繰り広げる、そういう時代に生を受けた英七都(はなぶさ ななと)がこの物語の主人公です。
 七都の母はレジスタンスを導く勝利の女神・英凛々子。しかし凛々子は第一都の残酷なる赤将軍の手により、戦場に命を散らします。父も既に亡く、唯一残された家族である姉の優花も第一都の男にかどわかされ、七都は天涯孤独の身に。相次ぎ家族を喪った悲歎と、自らより革命に命を捧げた母に対する激憤、相克する情動に心身を苛まれた七都に手を差し伸べたのは、謎多きシスター・聖羅でした。ふたりは次第に心深く絆を結び合うのですが、その間に存在した因果は彼女たちを非情な運命に誘うのです。
 繊細な心情描写、幾重に も絡み合う人間関係、その中で交わされる恋情、慈愛、思慕、嫉妬、憐憫、絶望、希望――数えきれないほどの生の心情。激動の時代に生まれ、その中を駆け抜けなければならなかった彼女たちの生命が、ありありと目に浮かぶほどの現実味を持って描かれています。
 母への複雑な想いを昇華させ、自らもレジスタンスの一員となることを選ぶ七都。その彼女を護ることを存在意義と定めながら、秘めた過去の重責に葛藤する聖羅。身分のために受ける屈辱に晒されながらも、凛然と生きる優花。少女たちの意志と覚悟、その生き様は息を呑むほど凄絶です。その周囲を彩る男性陣も個性的で、魅力に輝いています。
 戦乱の世に力強く生きる彼女たちの姿に自然と感情移入し、そのしあわせを切に願わずに はいられない――そんな熱量を持った圧巻の《少女小説》、それが『七都』です。
 全五巻中第四巻までが発行済み、最終巻が今秋リリースの予定。このドラマチックな少女浪漫革命譚の結末を、ぜひお見逃しなく!
推薦者世津路章
推薦ポイント人物・キャラが好き