尼崎文学だらけ
ブース 企画本部
委託販売
タイトル ミーティングは三〇二で
著者 紺堂カヤ×伴美砂都
価格 400円
カテゴリ 大衆小説
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紹介文
鷲羽友久、赤熊凜子。ともに大学1年生。
主人公二人と、その友人たちのちょっと不思議な青春の物語。
一年間の物語を、実際に一年かけ、リレー小説の形式で紡ぎました。ウェブ連載していたものを冊子化。
紺堂カヤ書き下ろしストーリー『また、四月』と作者二名のインタビューを収録した別冊がセットになっております。

鷲羽友久の好きなもの。
焼うどん、レタスの中華スープ、美空ひばり、山田洋次の映画、深夜のファミレス。
鷲羽友久の嫌いなもの。
チョコレート、照り焼きチキン、ヒーリングミュージック、スタローンの映画、結婚式。
そんな鷲羽友久は大学生になったばかりである。
宿井成徳大学、通称・宿徳大学の、理工学部建築学科。
宿徳大学は、最寄りの駅から十キロ離れた丘の上の広大な土地にある。この大学へ行くには、その最寄りのH駅から市バスに乗り換えなければならない。学生たちは登校時間に合わせて駅に集まるため、その時間帯のバスは乗車率二〇〇パーセントのすし詰め的な混雑ぶりだ。
(……大学に登校、って何か、表現として違和感だよな)
呼吸も満足にできないバス内の不快さをできるだけ感じないようにするため、友久はそんなことを考えた。
四月十日。入学式を除けば、今日が初めての登校日である。履修オリエンテーリングと英語力チェックテスト、が本日の主な予定のはずであった。
大学の門に横付けできるような形に作られたロータリーに、バスはぐわんぐわんと億劫そうに揺れながら入っていった。停車するや否やぷしゅー、とドアを開き、もう一瞬だって乗せておきたくはないというように学生たちを吐き出す。吐き出された学生たちもまた、一様にうんざりとした表情だった。これを四年も続けている学生がいるとは、友久には信じられない。
(早くバイク通学の申請をしよう)
友久はそう心に決めて、八号棟の教室を目指した。

赤熊凜子の好きなもの。
暖かい季節の早朝の散歩、図書館、グラタン、丁寧に淹れた紅茶、猫(ただし猫アレルギーだから触れない)。
赤熊凜子の嫌いなもの。
(……嫌いなもの、かあ)
苦手、と感じるものならたくさんある。人混み、ジェットコースター、油っこい食べ物、すぐ怒る人。……できれば、避けて通りたいもの。でも、嫌い、なんていう積極的な感情かなあ、と凜子はひとり首を傾げる。


普通の世界の、普通ではない瞬間。
本作は、とある大学を舞台に、著者二名が交互にストーリーを紡いだ「リレー小説形式」の作品である。
六本ずつ、計十二本の物語を一年に渡って繋ぎ、作中でもちょうど一年の時の流れを経る、というスタイルだ。

私は大学を経験したことがない。だが、日常のざわめきが非常にリアルに伝わってくる、伝えようとしている作品であると感じた。
学校生活の中にある喜び、戸惑い、葛藤、さまざまなものが、受け止めやすい速度で飛んでくる。
そうしたいたって普通の世界の中に「普通ではない瞬間」がフッと出てくる。現実にはこんなことはないだろう、でももしかしたら……と思いながら彼らの季節を追った。
ストーリーの中に、カメラで写したような、「写真」のような風景を感じることもあった。
……などと書いていると非常に難しい内容のように思えるが、軽快な速度で進んでいくため読みやすかった。
作者が変わるとストーリーを先導する視点人物も切り替わる形式であったため、バランスの良い区切り方になっていた。このことも読み進める速度を上げた一因だろう。
一緒に学校生活を送ってみたい、そう思えるような登場人物たちが一年を巡る。後味の良い作品である。
特別編が収録されている別冊もセットになっており、こちらには作者インタビューもついているなど、ボリュームも満点である。是非、オススメしたい。
推薦者月慈稀羅
推薦ポイント人物・キャラが好き