尼崎文学だらけ
ブース 恋愛1
ヤミークラブ
タイトル 斜陽の殺し屋 エリオ&ヴィンセント
著者 宇野寧湖
価格 400円
カテゴリ 大衆小説
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紹介文
表紙フルカラー(メタル印刷)、本文モノクロ34頁、オンデマンド印刷。

【小説】 「罠にかかった少女」 「殺しのレッスン」 「優しいパパ」
【イラスト】天宮ケイリ

大富豪の娘ミミは、人の嘘を見抜く能力がある。大人たちの汚い欲望に傷つき心を閉じてしまった。 そんなミミの護衛をすることになった、元殺し屋のエリオとヴィンセント。誘拐犯の襲撃の中、ミミは「人を殺す」ことに魅了されていき…… (おじさん同士のBL作品を含みます)

【長めの本文サンプル】http://www.pixiv.net/novel/show.php?id=6482814

【サンプル1】「罠にかかった少女」
 ギュスターヴ・クールベの「罠にかかった狐」という名画がある。狐が前足を罠に挟まれた様子を描いている。この罠はトラバサミと呼ばれている。鉄製の半円状の輪っかを地中に埋め、かかった獲物をガッチリとつかむ。間違って人間の脚が挟まれると骨折するほどの力がある。クールベの絵画では狐は悲痛な顔で暴れ、助けを求めるように鑑賞者へ訴えかけてくる。サディスティックな作品である。
 人には逃れられない罠がある。ヴィンセントの人生もガッチリと罠に心を掴まれていた。それが殺し屋の仕事である。何十人と殺し、肉屋のゴミ溜めに捨てられた臓物のようになった屍体を見てきた。人命を奪う仕事が楽しいわけはない。が、足を洗えるとは思えなかった。これは才に恵まれたものの特別な仕事だ。
 ミミ嬢を見たときに、彼女の脚にもこの罠をはめてやりたいと思った。彼女は十二歳。大富豪の家に生まれ、何度も誘拐されかけた経歴を持つ筋金入りの令嬢である。透かしの入ったレモン色のサマードレスはよく似合う。しかし、子どもらしい生気はなく黙り込んで暗い瞳をしていた。

 ここに来る道中の車で、相棒のエリオからミミ嬢について教え込まれていた。
「お嬢様は嘘を見抜く能力があるんだってさ。そのせいで十二歳にして人間不信だ。かわいそうな子なんだから、お前は余計なことを言うなよ」
 ツルツルに剃ったハゲ頭を撫でながらエリオは言った。スキンヘッドに黒のサングラスをかけ、アルマーニの上等なブラックスーツを身につけている。懐には殺し屋御用達のベレッタM九二。人頭を粉砕する破壊力を持つ銃だ。彼の自慢の車は一九七四年製のフィアット一二四スパイダーで、唸りを上げて砂埃を舞わせて走り抜ける。イタリアブランドをこよなく愛する古式ゆかしい殺し屋である。その割にエリオは本ばかり読んでインテリぶるのが好きだった。
 ヴィンセントはミミ嬢の話を聞かされ、「なんだよ、超能力か?」とつぶやきながらばらしたガラムをキセルに詰める。
「〈殺してばかりの人生〉と〈殺されるばかりの人生〉は、どっちがマシなんだろうな」