鍵を開け、チェーンロックを外し、ハンコを持って迎え入れる。渡される荷物は案外軽い。両手が塞がる。手が伸びてくる。え? 口を押さえられる。お腹にピリリと走る感触。熱が、あれ? 何? 熱い? え? あ? あ? あ――――――
そして劈く悲鳴は男の手に阻まれ響き渡らず、鉄の扉とコンクリートの壁に阻まれた団地の室内は惨劇の様子を戸外に伝えること無く、人知れず狂気は実行されていく。 繰り返される惨劇のリフレイン。終わりの決まった演目。絶えず上塗りされる恐怖は憎悪を蓄え、やがて怨嗟へと変化する。ここはその製造工場。常人には見えない境界の狭間。こちら側と、あちら側の間にある不確かな世界で人知れず行われる行為。 いつかここを訪れたカップルはその漏れ出す怨嗟に気が付かず、後日交通事故によって死亡する。度胸試しに訪れた大学生たちは、その帰り文字通り狂ったように度胸を試して飛び降り死んでいく。取材に訪れたライターは、その後謂われの無い悪意に苛まれ職を追われ、山中に消えて死んでいく。 そんな地獄がこの猪見谷工業団地13号棟505号室。
―――が、今回ばかりはその惨劇に特別ゲストが登場。口をふさがれ、両の手は段ボールを持ち、為す術も無くお腹に突き刺さるはずのナイフは、ゲストの持つ肉厚のフォールディングナイフに阻まれた。
◇
「――っ! 何見えない境界の狭間ん中でこそこそやってんだよこの変態が!!」 入って直ぐ、目の前の光景に驚く暇も無くナイフで殺人鬼のナイフを受け止め、打ち払うように一線。上に弾くと、狭い玄関でコンパクトに膝蹴り、上段、蹴り下ろしの三連撃。後ろによろめき扉に背を預ける殺人鬼。呆然と立つ団地妻の手を取り、奥の居間へ引っ張り込む。
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