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風が吹いている。頬を撫でるのは明日香風。随行の女官たちの領巾がはためいている。遥かに下を見おろせば、民びとの住まいから炊の煙がのぼり、干した白い布が揺れていた。 |
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万葉集に材をとり、その時代の人々を雄大な世界観とともに生き生きと描いた二つの物語が収録されています。 表題作では、持統天皇の有名な「春過ぎて夏きたるらし」の和歌を主軸に、この歌にまつわる、その夏、その場に生きていた人の思い出が、元明天皇によって懐かしく語られます。あたらしい平城京で新たな天皇として立つ氷高皇女への期待が清々しく、装丁やタイトルとも雰囲気がぴったりです。 さて、万葉集にはたくさんの詠み人しらずの歌があり、また、詠み人の名はわかってもその詳細が不明という場合も多くありますが、本誌の二篇ともに主要人物として登場する檜隈女王もそのひとりです。本作では、残されたただひとつの歌から、この謎の女王の人となりを豊かに想像して物語を彩らせています。控えめで聡明で誇り高い女王はとても個性的で魅力あふれるキャラクター。「わからない」ということが、古代へのロマンをさらに掻き立てるのです。 万葉の時代に興味がある人にはいっそう面白く、そうでない人にも古代日本に興味を持つ良い導入になることでしょう。 | ||||||||||
推薦者 | 並木 陽 | |||||||||
推薦ポイント | 世界観・設定が好き |