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「服ぐらい自分で脱いで入ってろって。小さな子どもじゃあるまいし」 |
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神獣として成長する千遙は、真由人を嫁に欲しいと言うが……!? 普段は一緒に風呂に入れてあげるほど仲の良い「千遙」と「真由人」。(真由人=おれがお世話) 真由人も千遙も良い子で、幼なじみ・人外・執着などが盛り込まれています。 悩み苦しむ攻め目線が好きな私には、とても嬉しい作品でした。 千遙から嫁取りの申し出をいったんは拒絶する真由人だけど、自分しか千遙の世話を焼きたくないと葛藤する姿に共感してしまいます。 つき抜けている千遥よりも、中学生らしく悩む真由人が身近に感じました。 千遙の首をしめちゃうところなんか、すごく追い詰められてるのがわかります。 あと、千遙が神獣であることを示す「角」がとてもいいアイテム(?)。 入浴シーンの角の描写ががエロいです。 あちこちからもれ聞いて再読し、確認致しました。「見てはいけないもの」のような種類のいやらしさです。 後半の二人で不思議な隠れ家で住むシーンはとても幸せで、見てて微笑ましいです。 くだけた話し言葉と地の文に、若さをひしひしと感じる作品。 | ||||||||||
推薦者 | きよにゃ | |||||||||
推薦ポイント | 表現・描写が好き |
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温室さまのサークル紹介に「ギムナジウムの壁になりたい」とありますが、まさにそんな気持ちになる一冊。少年たちをこっそり覗き見しているような至福の読書体験です。 美麗なカバーに吸い寄せられるように手に取りました。いつまでも眺めていたい。 角の生えた美少年・千遥と、その幼馴染の真由人。中学生の男の子ふたりのあまくかわいらしい物語なのですが、とてもとても美しく官能的で……。読みながらずっとドキドキしていました。 神さまの血筋をひくという小夜井家の嫡男・千遥にはその証として額に角が生えています。「真珠のようにほのじろく光る尖り」「慎ましい貴石のような、隆起」という角。そして自堕落で甘えたがりという千遥の世話焼きをする主人公・真由人。ある日千遥に嫁取り話が持ち上がり、真由人は身を引こうとします。真由人の切実な葛藤を軸に物語は展開されます。 冒頭のお風呂のシーンで一気に引き込まれました。全年齢作品で直接的な性描写/シーンはないのですが、美しい描写はとにかく官能的です。やわらかな筆致のなかに、ずっとたゆたっていたくなります。 少年たちのみずみずしいやりとりと、思いの切実さ。「痛みと軋みをともなう夜を耐え、日毎ちがう自分と出会う」変化のさなかにあるふたりが互いを求めあうさまに酔いしれました。 真由人と千遥、ふたりともが「欲深くうつくしい生きもの」であるのでしょう。それをそっと眺めるような読書体験は、なんだかいけないことをしているようなドキドキを湛えて、とても幸福な時間でした。 | ||||||||||
推薦者 | オカワダアキナ | |||||||||
推薦ポイント | 表現・描写が好き |
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美しいタイトルと、まばゆくきらめく装画の織りなす完成された世界が魅力を放つ一冊。 主人公である「おれ」こと、文原真由人の幼なじみ、小夜井千遙の額にはなめらかで美しい乳白色の角が生えている。どこか畏怖の念すら感じるそれを持つ彼は「神様に愛された子ども」として特別視されているが、真由人から見た彼は自分と同じ成長期の、やや度を超えた自堕落であまえんぼうの幼なじみだ。子どもじゃあるまいし、とあきれながらも、真由人は自らを信頼しきってあまえてくる千遙の面倒を見てやれるのは自分だけだ、と知らず知らずのうちに特別な感情を抱いている。 たがいの無自覚な無邪気さの上に成り立つ、不思議な均衡の上に保たれている関係性は、「大人の男」になっていく時期を迎え、変化を余儀なくされる。 「神獣」である千遙は神の子の血筋を絶やさぬために嫁をめとらなければいけない。「男」であり「大切な友達」である真由人は千遙の世話を焼くという役目を降りなければいけないという。 幼い独占欲を自覚し、千遙に課せられた「神様の子ども」としての役割を前に引き裂かれ懊悩する真由人の心の移ろいを切り取った描写のひとつひとつは、切なくなるほどの息苦しさと、むせかえるようなあまやかさが潜められています。 やわらかに開かれた言葉たちでつづられる、真綿でくるむような愛情で千遙を自分だけのもとして閉じこめてしまおうとする狂おしいほどの純粋な思いはただひたすらに甘美で、直接的な表現がほとんど無いながらも、まばゆいほどの恍惚感と官能の気配を忍ばせているかのよう。 「ふたりだけ」で居られる世界に迷い込んだあとも、永遠にここには居られないと苦悩する真由人の迷いを前に、ふたりだけの思い合う絆があればそれを乗り越えられるはずだ、ときっぱりと思いを告げる千遥はただのあまえんぼうの子どもではなく、大切なものを守り通す意志の強さを持っていたのだと真由人と読み手である私たちが気づかされる終盤の展開はただひたすらに尊く、美しい。 目に見えなくとも二人の絆は確かにあり、そしてこれからも変化し続ける。蛹が繭を脱ぐように、身体と心の移ろいと共に。 二次性徴を迎える少年期の身体と心の移ろいに伴う戸惑い、呼応するような軋む痛みと、それらを乗り越えた先のあまやかな絆。清冽な空気の中でそっと切り取られる、きらめきと可能性に満ちあふれた物語。 | ||||||||||
推薦者 | 高梨 來 | |||||||||
推薦ポイント | 文章・文体が好き |