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私はあの国で起こったことを、どういう形で書き始めていいか分からないのです。あの美しい飛鳥国のことを、私たちが愛した国のことを、どのように書けば伝わるのか分からないのです。 |
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興奮が、ずっと最後までつづく。書き手の熱量に殴られる。圧倒的な物語の力に唸りました。 だなんて書くと、腰を据えて読まねば/集中できる時間を作らねばだなんて構えてしまって、買ったものの積ん読になってしまいがちだけど、『ともだちの国』は一度読み始めたら最後まで走り抜けてしまう小説です。物語にパワーがあって、そこに浸らせてもらえるのがただただ恍惚。読んでよかった。 稚児としての役割を負い、男性でありながら女子校舎に入れられた全は、肉体もこころも去勢されたような状態。彼の語る「国」の描写は淡々としてさえいるけれど凄絶です。ずしんと響く。 架空の国「飛鳥国」や超能力の設定はある種ファンタジーなのだけれど、小説の根底に流れ、引っ張っていくのは、どこまでもシンプルな「愛」のありようでしょう。人を愛することとは?自分を愛することとは?人と人、手を取り合って生きて行くことって?他者とかかわりあうことはどういう痛みが?全と昴の選択、ふたりの駆け抜けた物語をぜひ見届けてほしいです。 あとこんなこと言っていいのかなんですけど、全と昴の関係性、暮らしぶりにどきどきときめいたのです。口調や語り口が好きです。熱と質量ある物語を飽きさせない、愛ある人物造形と描写が、物語にすっとのめり込ませてくれます。至芸。 | ||||||||||
推薦者 | オカワダアキナ | |||||||||
推薦ポイント | とにかく好き |
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京都の町中の描写、これがまずとてもリアルだった。 出てくる土地の描写ひとつひとつがその土地の空気を醸し出していて、 ぐんぐんと引き込まれた。 とにかく、文章が上手い。 丁寧に淹れた日本茶みたいだった。 「飛鳥国」の設定なんかはファンタジーに思えるのだけど、 語り口も相まって、「神話」と呼ぶのが良いように思う。 (個人的には大江健三郎の作品の構成を思い起こした) 国を出てふたりだけの国を作るという行為、 そういう夢を持てるようになった全に幸あれ。 本当に濃密で、きちんと始まり閉じた、すごい一冊だった。 とりとめない文章だが、多くの人にすすめたい本であると、 最後に今一度お伝えしたい。 | ||||||||||
推薦者 | 第0回試し読み会感想 | |||||||||
推薦ポイント | とにかく好き |
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物語は、男女間の婚前の恋愛が認められず、同性間の関係(「ともだち」と呼ばれている)で、愛をおぼえてゆく新興宗教国家が舞台だ。主人公湖東全は男性の肉体を持っているが、「稚児」であるがゆえに男女が共に学ぶことのない国で、女子校舎に入れられる。ああこういう展開あるよなあ、とは思うのだ。だけど、その状況から容易に想像のつく、下品な展開には決してならない。 周りが少女ばかりでは男性の肉体を持っている稚児は「ともだち」をつくれない(稚児は「ともだち」を持ってはいけないのだけれど)。稚児が国のものに崇拝されていることも作用して、全と少女らの関係は「エス」と言ってもいい、きわめて禁欲的なものになる。 しかし、その立場はどこまでいっても「稚児」である。 女子校舎に入れられ、男性という肉体の性を剥奪され、みずから選び取ったパートナーである「ともだち」ではない同性と強制的に肉体関係を結ばねばならない全は少女たちよりもずっと弱く苦しい立場にいる。 男の肉体を持っている、ということが優位ではないのだ。 ――この「国」では「不足」は美徳だ。足りていることよりも、足りていないことのほうがとうといという。 その「不足」を体現させられているのが「稚児」なのだ。語弊をおそれずにいうのならば、現代の社会においては一種「足りている」つまり社会的にさだめられた優越種としての男性が、その優越を剥奪された状態。 現代社会でかたられる「男性の肉体を持っている」ことが生存において絶対の優位でないことを物語ははっきりとえがきだす。 ここでは、主人公の全の「稚児」という点についてしか触れることはできなかったが、他の登場人物らもまた、様々な形で「不足」と向きあっている。 不足と折りあうことはない。だれもが苦しみ、どこへもいけず、とどまるようにして、不足と膠着しつづける。 世界に生じたとき、だれもにあらかじめ設定されている肉体という枷の重みと、それにあらがいつづけること。男であろうと女であろうと、わたしたちの肉体はどこかで「不足」であることを。 「不足」を抱えた生存への挑戦を、「ともだちの国」はかたる。 | ||||||||||
推薦者 | 孤伏澤つたゐ | |||||||||
推薦ポイント | 物語・構成が好き |
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日本と地続きにかつて存在していた架空の独立軍事国家をたったふたりで崩壊させ、そこから生き延びた男女二人の逃避行とその後の愛の軌跡――乱暴な言い方をしてしまえば、そういった切り口で語られる物語なのかもしれない。しかし、この物語は酷く淡々と冷静に、突き放されたかのような温度で進む。 「普通の暮らし」をしたいとしきりにいう全と昴――双子の兄妹だというが、容姿から話口調から似ても似つかない様子で、彼らの暮らしはごっこ遊びのようだ――不穏な気配を漂わせる日常の中で、全が記した「物語」の形をとって、彼らが国で過ごした時間は語られる。 人々を狂わせる肉欲、性行為を堅く取り締まることで自由と節度を守られた「幸せな国」 現実の日本と隣り合わせに存在するという国のあり方、いびつさを抱えながらも国を愛し、そこでしか生きられない人たちの生き様を、徹底した緻密さで、読み手の世界に呼び起こすようにありありと描き出す。 主人公である湖東全は男の肉体を持ちながら稚児として僧侶に抱かれ、少女たちを脅かさない存在として、本来出入りを許されないはずの女子校舎で女生徒たちと勉学を学び、彼女らに当然のように慕われる。 誰もに等しく優しく、決して誰のことも傷つけない全は周囲の人間に愛されるが、他者を愛すること・欲望を抱くことを知らないまま、それらを当然のこととして受け入れてきた彼は誰のことも選ぼうとはしない。 そんな全が初めて「選んだ」相手は、同じようにこの国の歪みを「性行為」という形で引き受け、そんな国の成り立ちを自らと同じように憎んでいた巫女・幸妃昴だ。 選びとる、ということは(乱暴な言い方をしてしまえば)選ばなかった方を捨てることだ。憎み続けた国を、そこで共に過ごした、最期まで愛することの出来なかった人たちを――すべてを捨て、愛するたったひとりを選ぶ。それは、ずっと憎んでいた自身を受け入れ、愛することとも繋がっていた。新しい国をふたりで作ろうと決意をし、前を向こうとする二人の姿にはほんとうの意味での「愛すること」のひとつの答えが照らし出されているかのようだ。 全が国での出来事を「物語」として記したように、「物語」の形式を取ってしか描けない、魂の本質を射抜くような衝撃を残す一冊。 | ||||||||||
推薦者 | 高梨 來 | |||||||||
推薦ポイント | 世界観・設定が好き |