出店者名 午前三時の音楽
タイトル 光る音
著者 高梨 來
価格 0円
ジャンル JUNE
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紹介文
短歌/俳句と300字SSを組み合わせた折り本です。

春はすぐそこに

「ねえ、寒いなって思ったら氷だよ。暦ならもう春なのにね」
 指し示した先にあるのは、水溜りに薄く張った氷だ。
「こうゆうの見るとさぁ」
 答えながら、スニーカーの爪先はちょんちょんと氷の上を慎重に突く。
「こうしたよね」
「おまえらしいな」
「どういう意味?」
 曖昧に笑いながら、するりと流れ出して行く水を息を飲むようにしながら眺める。
「昔さ、先生が言ってたんだよね」
 瞳を細めながら、傍の相手は答える。
「雪や氷が溶けることで、またひとつ春が近づきます、って」
 得意げな笑い顔と共に告げられる言葉はこうだ。
「早く春になるおまじない、ね」
 やわらかなぬくもりが、胸の奥を淡く溶かしていく。


薄氷を踏みしだかれて春溶ける