出店者名 眠る樹海堂
タイトル 50:50(フィフティ・フィフティ)
著者 土佐岡マキ
価格 400円
ジャンル 大衆小説
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紹介文
「ライカ、君の頭脳を信頼してるよ」
「……テメエ、何しやがった」

探偵業をつとめる雷火は、仕事仲間の腐れ縁・聡真の罠にまんまと嵌まり、命懸けのゲームをすることになる。常のとおり飄々とした態度でゲームを進行する聡真と目的が読めないままそれに付き合う雷火。言葉の表と裏を見切り、無事に生還できるのか。勝利を目指す頭脳戦。

文庫判/80ページ
ミステリ

 ふくく、と押し殺した笑い声が聞こえた。
 この場にいる誰かに聞かれれば、間違いなく不謹慎だと咎められるだろう。掴みかかられたっておかしくない。しかし幸か不幸か、それに気付いたのは隣に立っている雷火だけのようだった。もしかすると、雷火だけが気付くようにわざと、という可能性だってある。
 そういう嫌な奴なのだ。藤沢聡真という男は。
「おい、聞こえるぞ」
 小声で忠告を吹き込んで様子を窺えば、緩む唇を懸命にこらえる横顔が映った。彼のそんな顔をみる度に、人の死に慣れきった自分たちの無神経さに気付かされる。
 すぐ隣の部屋には今も屋敷の主人の死体が転がっていて、同じ部屋に悲嘆に暮れる遺族の姿があっても、感情は揺れなかった。それぐらいがちょうどいいとも思う。
 雷火にとって、そして聡真にとっても、誰かの悪意がもたらす死は日常風景の一つで、飯の種でもある。いちいち動揺している暇はないのだ。鈍感過ぎるくらいじゃないとやっていけない。自分たちの役目は、速やかに真相を導き出すこと。それ以外にリソースを割けるほど、雷火の頭は器用に出来てはいない。
 しかしながら、聡真のニヤつく口元を見ると、雷火は少しだけ安心する。自分の人間らしい感情はまだイカレてはいないと分かるから。少なくとも聡真よりは。
 ……まあ確かに、遺族に対してお悔やみ申し上げる気持ちよりも、疑念の方が強いことは否定しない。ハンカチを目元に当てた奥方、それにすがって泣き崩れる令嬢、青ざめた婦人、うなだれる老爺、苛立った青年――おそらくこの中に、悪意を持った人物が紛れ込んでいる。
 容疑者の顔をぐるりと見渡す聡真の様子を見て、雷火は焦燥感に駆られた。きっとコイツにはもう分かってしまったのだ。
「あくまで僕の勘なんだけどさ、犯人ってあの人だと思うんだよね」
 案の定。あっさり告げられた答えに思わず舌打ちする。当てずっぽうのように言っているが、聡真が勘を外すのを見たことはなかった。今回のこれも、例に漏れず正答に違いない。ゴールが定まった以上、出し抜かれるのも時間の問題だ。
 だが、諦めるにはまだ早い。聡真にだってまだ、答えに至るプロセスは見い出せていないはずだ。これ以上差をつけられまいと、思考をフル回転させて周囲を注意深く窺う。
「わー、こわい顔。怒った? ねえ、怒った?」
 しかし意識の隅に邪魔者がちらつく。