出店者名 紫陽花宮
タイトル フェアリーテール
著者 水無月美伊
価格 300円
ジャンル 大衆小説
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紹介文
克巳は高校三年生。不幸な境遇に育つが心の優しい少年。行きつけのカフェのウェイター薫を思慕している。ある日克巳は、死んだと聞かされていた母親が生きていると知る。母との再会、新しい父との出会い、同性の薫を思う気持ちに対する戸惑い。多感な少年の成長を描いた物語。

 薫の車が停めてある駐車場まで二人で歩いて行き、車に乗った。
 車が斉藤家に着くと、克巳は、借りていたマフラーをはずした。
「これ、ありがとう」
 だけど薫は、マフラーを受け取らなかった。
「それ、お前にやるよ」
「えっ」
 克巳はそのマフラーを見た。黒い毛糸で編んであり、「K」と白でイニシャルが編み込みしてあった。不揃いの網目が、既製品ではないことを物語っていた。
「お前もイニシャルKだから、いいだろ」
「でも、手編みだろ。誰かからもらったんじゃないのか」
「うん。昔つき合ってた子が、編んでくれたんだ」
「そんな大事なもの、もらえないよ!」
 克巳は、マフラーを突き出したが、薫に押し戻された。
「いいんだ。昔のことなんだから」
「……そう……」
 克巳は思った。もしかしたら、別れた彼女のものは、持っていたくないのかもしれない。
「じゃあ、もらうよ。ありがとう」
 克巳は笑顔を作った。