出店者名 博物館リュボーフィ
タイトル 羽化待ちの君
著者 まるた曜子
価格 400円
ジャンル 恋愛
ツイートする
紹介文
小学6年生の八重原橙はとある再会から4年前の事件を思いだす。
「子供のまま潰されたくない、
誰にも見つからないように『大人』になるんだ」
彼女にできるサバイブは、証を重ねることだけ。
決意を秘めた少女は蛹に籠もる。ただひとり叔父だけを頼りに。
けれど、唯一の頼り手にも、傷は、秘密――。

粗忽で胡乱な昆虫写真家の叔父を手伝う、
一見甲斐甲斐しくて男に都合良さげで健気な尽くし系少女の、
その本質を磨き上げる恋愛劇。
これは、やがて飛ぶための物語。

※《橙と要》シリーズは
自分第一な叔父としっかり者の姪の、禁断も耽美もない『生活』が主軸です。
シリーズ完結済。秋に拾遺集発行予定。
※R18

「お前へんだぞ。そういえば中学受験するとか言ってなかったか」
 まさか落ちたのかと暗に問われて橙は吹き出した。
「受かったよ」
「じゃあ何があったんだ」
 おじは橙にはやさしい。全体的にはダメで非道いちゃらんぽらんな人だが、父や母と違い橙が被害に遭ったことはない。
「知らないならいいんだ。別のことだから。―――誰にも、聞けなくて。けど、聞いていい?」
「なんだよ、お前にゃ世話になってるからな、たまには頼れよ」
 18も年下の姪に頼ってるなどと、柔らかな口調でふざけた物言いをするおじに「お母さん達には絶対秘密だよ」と念押しする。頭に置かれた彼の手から抜け、椅子から降りた橙は服を脱ぎだした。呆気にとられる彼を尻目に下着も靴下も取り払う。テーブルを回って全身がおじの目にさらされる位置まで移動する。
「なにやってんだ橙」
「おじさん、あたしの身体ってどう思う?」
「どうって何だよ、なにしてんの?」
「あたしに何かしたいって思う?」
「何かって……ああ? お前は俺をロリコンだとでも思ってんのか失礼だな、まったくもってキョーミねえぞ。早く服着ろ」
 心底呆れたようなおじの声に安堵しつつ、「ねえ、ちゃんと見て」と促す。
「お前本気で大人が誘惑できるとでも思ってんの?」
 どうも答えて欲しい方向とは違う回答しか返ってこず、焦れて橙は声を荒らげた。
「ちっがーう、観察してって言ってるの! ヘンなとこ、ない!?」
「ヘンってなんだよ、わあったよ、ちょっとそこでぐるっと回ってみろ」
 腕を軽く開き、ゆっくり回って見せる橙を眉を顰めつつ冷徹な目差しで見据えたおじが、深く息を吐き背もたれに体重を移行させた。
「わっかんねえなあ、なにがしてえんだよお前。どっか痛いとか違和感があるとかなのか? 目視じゃ捻れてるとこも腫れてるとこもねーし、おかしなとこなんてなんにもねえぞ」
「ほんとに? 普通?」
「普通普通。細えなーくらい。子供過ぎてなんにも思わねえよなあ。青いったって青過ぎだろ」
「え? どっか青い? ぶつけた?」
「辞書を引け」
 ぶっすりと口を曲げる彼に笑いかける。春先のこの部屋は足下の小さなストーブだけでは暖気が足りない。鳥肌の立ち始めた身体にまだぬくもりの残る服を再び身につける。
(よかった、あたしは普通。特殊なカラダなんかしてない。ヘンな人を呼ぶ身体じゃない)
(おじさんは普通)


やがて飛び立つふたりの物語
トラウマ持ちで心を閉ざそうと生きてきたヒロイン橙と、一見チャラン
ポランで自由人なおじさん要。
大っぴらには言えないふたりが年の差・近親の障害をのりこえて
しなやかに軽やかに、二人で飛び立つための生き方をもさくする物語。
逞しく力強い絆とちょっとドキドキするえっちな展開に……と、
ドラマがずっしりしっかりとあって楽しめました。
推薦者第一回試し読み会感想

はやく「おとな」になるために。
まるたさんの作品は、どれも女の子がしなやかでかっこよく、おまけに可愛いのが特徴のひとつですが、この「羽化待ちの君」と続編である「Beautiful Days〜碧の日々〜」のヒロインをつとめる橙ちゃんはナンバーワンと言っても過言ではないハイスペックヒロインです。一家に一人とは言いませんが、ぜひお友達になりたい。
橙ちゃんの手料理で、「僕の真摯な魔女」のすずのんや「花と祝祭」の絢音ちゃん、「淅瀝の森で君を愛す」のまお姉さんと女子会をしたい。そういう女の子です。(ステマ)

既存の恋愛ものジャンルにありがちな、いわゆる「お邪魔系・トラブル体質系・夢見るヒロイン」とは一線を画したヒロイン像は、あまり恋愛ものを読まないという方にこそ読んでいただきたいです。もういっそ、ヒロインと呼ぶのもやめたい。ヒーローです。私の。

本作は叔父さんと姪の、いわゆる歳の差(18歳!)近親もの。橙が学生の頃から写真家として各国を飛び回っていた要は、橙にとってもっとも身近な「世界を見せてくれるふつうの大人」。身内からはダメのレッテルを貼られつつも、幼い頃に遭遇した事件のせいで、橙が抱く脆く性急な早熟願望をうまく受け止めつつ、日本での事務作業を任せるなど、自分の利益と橙の願望をすりあわせて最善の形に導いていく、みたいな包容力のある人物です。

ふたりとも、行動力の塊みたいな性格で、実務的、実際的。と書くとシステマチックで冷徹な人のようですが、ちゃんとけじめをつけられる人、という意味です。世間的にはおおっぴらにできない関係にあるふたりが、ふたりであるために必要なことをひとつひとつ着実にやり遂げていく。選び取り、あるいは捨ててゆく、その地に足が着いた描写とディテールの圧倒的リアリティで物語をぐいぐい引っ張っていきます。
綺麗事だけではありません。苦みも失敗も味わって、それをも糧に成長していく。だからこそ描かれる希望が尊いのです。

いわゆる昼ドラ的な、どろどろした感情の交差ではなく、愛情は(ひとまず)前提、そこからの紆余曲折を楽しみ、寄り添う物語。
えっちいシーンはえっちいですけど(R18だけに)、可愛いし祝福気分でいっぱいの、いわばボーナスステージです。お楽しみに。

こちらを好きな方は続編「Beautiful Days〜碧の日々〜」も間違いなくはまりますのでぜひぜひ。
推薦者凪野基

恋が濃い
主人公の少女・橙(ともる)が、少女から女性へと成長していく姿を描いたシリーズの第一弾。
序盤からハードな問題が待ち構え、メリハリの効いた展開ですが、
シリーズを通じて細かな部分をよく調べて書かれており、情景描写の細かさ×人物の心の揺れが
しっかりと描かれている点が特筆すべき作品です。
敢えて言うなら恋が濃い、味わいのある作品として推薦いたします。
推薦者悠川白水

叔父さんに求めた 「私の観察」。 秘密の恋は、やがて生活へ羽ばたく。
 幼い頃に変質者に遭ったことをきっかけに、自分の身体はおかしいのではないかと不安を抱える少女・橙。「おとなしく、ひっそりと、目立たぬように」大人になろうとします。昆虫写真家兼ライターの叔父・要を手伝いつつ、叔父のアパートを隠れ家のようにして過ごす「蛹」の日々。変わり者の叔父は、橙にとって心の拠り所となります。橙はボディチェックと称して自分の身体におかしなところがないか、裸になって叔父に見てもらうようになりますが…。
 元気の出る恋愛小説です。と言ってしまうと簡単すぎるかもしれません。しなやかで、したたかで、いそうでいないヒロイン・橙がとっても魅力的です。
 作者のまるた曜子さんは自身の作品群を「生活密着恋愛小説」と紹介されていますが、まさに?生活?。キャラクターや会話がみずみずしくて、もしかしたらこんなひとたちがすぐ隣にいるかもと思える(いやなかなかいないんだけど、いてほしい! と思える)ディテールのこまやかさが素敵です。
 教室で職場で街角で、すれちがい行き過ぎていく誰かの生活に、こんなヒミツやドキドキが隠れているのかも、そんなことを考えました。誰しも大声では話せない悩みや恋愛があって、それぞれに生活がある。誰かを好きになって、居場所をつくって、生活を切り開いていくのは素敵なことなんだなあ。誰かの生活を肯定することは、身の回りの家族や友人、ひいては自分の生活も愛しいと肯定していくことでしょう。
 橙はとても甲斐甲斐しい。小学生の頃からアパートで掃除をしたりごはんを作ったり、高校生になると仕事のアシスタントを始めます。青春を叔父さんに尽くしているようで、自分のために居場所や生き方を獲得していくのだなあと感じました。彼女が彼女として人生を生きのびるためにもがいて考えて、叔父との関係を選び取るということ。
 個人的にはセックスシーンがよかったです。歳の差ものの醍醐味、知識や経験を与えていく過程にドキドキしました。要のアパートは風呂なしで、橙があれこれ準備するところが可愛い。要が夢中になるさまも愛しく、結びつきを強くするコミュニケーションといった感じ。
 つまり誰かを好きになることは、自分を好きになることでもあるのでしょう。自分を肯定して生きていくために、心や身体を大切な人と開き合うこと。地に足のついた「元気」をもらいました。
推薦者オカワダアキナ



推薦する
お名前
メールアドレス
推しコピー
推薦文(1000文字以内)

セキュリティ文字 「あまぶん」と入力してください