出店者名 そらとぶさかな
タイトル 薬屋のクレオール
著者 そらとぶさかな
価格 400円
ジャンル ファンタジー
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紹介文
愛不足病の母を持つ少女、影になった採光師、旅の景色売り…。
「薬」を求める人々は、草原にたった一軒の薬屋を目指す。
薬屋のクレオールと、空を集める翼の生えた青年は、
訪れるお客さん達にどんな薬を渡すのか。

シリーズ三話をまとめたファンタジー短編集です。

 クレオールは空を見ていた。
 快晴の空は、澄んだ宝石のような青さで、太陽は淡い光のベールをまとって輝いている。ここ、クレオールの薬屋の屋上からは、そんな青空をどこまでも見渡す事ができて、彼はその日の午後も、木の柵にもたれて一人で、空を見渡していた。
 そこへ、翼のはばたく音が近づいてくる。空集めの青年が、布袋を提げて屋上に降りてきた。
「快晴はな、見る分にはそりゃきれいだろうけどよ。こっちは大変なんだぜ」
 空集めがそう話しかけてきて、ようやくクレオールは彼に気づいた。振り返ると、空集めは白い翼をたたんで、袋を下ろすところであった。
「硬いから砕くのに苦労するだろ、その上にひどく薄いときてる。量も無いから集めるのが大変なんだ。少し雲があるぐらいが、採りやすくていい」
「僕は、この方が好きだな」
 クレオールはそう言って柵を離れ、空集めのところへ歩いていく。空集めは布袋を渡す。
「俺だって、見る分には快晴の方が気分が良いさ」
 袋をクレオールが覗くと、その中には、割れた薄いガラスのようなものが沢山詰まっている。頭上に広がる空から採った欠片である。青い光がきらきらと溢れている。まだ集めたばかりで新しい事を示す、豊かな光。
「硬いから手に刺さらないようにしろよ」
「ありがとう。明日も同じで良いよ」
「わかった」
 空集めは、屋上を囲う木の柵の途切れた所から、外側へと出て、建物の端に座る。いつも彼の座る場所である。

(薬屋のクレオール『少女と愛の話』より)


空を見あげて
見晴らしの良い草原に薬屋はある。
そこに、様々な悩みを抱えた人々が立ち寄る。
クレオールは彼らの話に耳を傾け、悩みの本質を感じとり、世にひとつしかない薬をつくるお話。
不思議な世界観にひきこまれます。
しかし、重要なのはやはり、クレオールは一人で薬をつくるわけではない、というところでしょうか。
空の欠片を空から取ってきてくれる、「空集め」が必要なのです。

空の欠片を毎日のように持ってきてくれるのは、翼の生えた「空集め」の青年。
当たり前のように、日々、空集めから空の欠片が供給されます。
クレオールと空集めの青年は、仕事の話も、たわいのない会話もします。

だけど、読者はだんだん気になり始めるのです。どうして空集めは、空を集めているのだろう、と。

当たり前の光景に、ふと疑問を抱く。その誘導がとても絶妙で、引きこまれるまま一気に読みきってしまいました。

オンとオフでギャップがあるクレオールの性格も魅力的ですし、
ぶつくさ文句を言いながらも、クレオールを気遣う空集めの青年も良いです。

元々私は、空が好きで、それでこの本を手に取ったのですが、
空を好きだと言ってくれる二人のことも好きになっていました。

やはり圧巻は、エンディングにあります! 気に入りました。
二人の友情に、幸あれ。
推薦者新島みのる