出店者名 藍間真珠
タイトル わたしとあなたのあわいのことのは
著者 藍間真珠
価格 300円
ジャンル 掌編
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紹介文
近未来世界を舞台に少女たちの関係性を描く短編集。
「変わり者のあなたと諦めの悪い私」「心ばかりの悪だくみ」「雪が溶けたら」「イマジネイション憧憬」の4編を掲載。

 私はサリーに興味がある。
 澄ました顔で電子黒板を見つめるサリーの横顔は凜としていて好きだ。頬に落ちる短い髪を耳にかける仕草も、時折ひかえめに目配せしてくるところも、鉛筆を指の上でくるくると回す癖も気に入っている。
 サリーはいつもシンプルな恰好をしている。今日も白いシャツにキャメル色のロングスカートという、こざっぱりとした服だった。首元で光る小さな緑の石が、ささやかなアクセントになっている。それになんといっても、時々光を反射して煌めく銀の鎖が、繊細で品があって美しい。あのペンダント、他の子は絶対に選ばない。
 どうしてこんなに綺麗なんだろう。モデルみたいに特別顔立ちが整っているわけじゃあないけれど、汚い言葉も使わないし、余計なことも言わない。サリーはとても秀麗な人間だ。
「こはな、何?」
 すると、サリーがゆっくり振り返った。また見つめているのがばれちゃったみたい。
 私はふるふると首を横に振った。今日は両サイドで結わえているから、亜麻色の髪がふわふわと揺れるのが目に入る。この色が気に入っているからついこうしちゃう。髪の動きは何故か自動反応も豊富なんだ。
「別に、何でもない」
「何でもあるでしょう? こはなったら、さっきからずっとこっちばかり見て」
 苦笑するサリーの白い指が、今日も艶やかな黒い髪を耳にかけた。ああ、なんて美しいんだろう。ついつい見惚れてしまう。このアバターの扱いに慣れてきた今でも、私にはあんな風に流れるような動きはできない。投影装置を使ったってきっと無理だ。
「あ、ばれた?」
「そりゃあ、こはなったらわかりやすいもの。授業中だってちらちら見てたでしょう? 先生は気づかなかったみたいだから、助かったわね」
 どうやら心配していてくれたらしい。サリーはかすかに苦笑した。そんな表情も自然だ。
 でも先生は気づかないはずだと私はわかっていた。だから堂々と見てたってこと、サリーは知らないらしい。あの先生は授業中はカメラを使っていないから、こちらの様子はわからないんだ。たぶんあの先生のドームの回線が弱いせいだろう。私はそう踏んでいる。
「大丈夫大丈夫。私、成績はいいから」
「……そうね、こはなは頭いいもんね」
「頭はよくないよ。成績とは別」
 ため息をつくサリーに向かって、私はきっちり訂正した。サリーのそんなちょっとした仕草だってこの心をときめかせるんだから、どうにもならない。