出店者名 コハク燈
タイトル 小夜時雨
著者 コハク燈
価格 ¥700
ジャンル 大衆小説
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紹介文
 雨の記憶はいつだって胸を締め付ける。それでも、二人で生きていきたいと願った。一人と一人の記憶の欠片。――二人傘/瓜
 「ねえイルカさん、退屈だわ」美しい色彩の海にたゆたい、互いに思い合う少女とイルカの日常は静かに変わって行く。――海の戯れ/笹
 傘を忘れたあの日、タイプじゃないイケメン(そこそこ)に出会った。高崎君と珈琲の香り。気付けば少し雨の日が楽しみになっていた――なっていたのに。気付いてしまったら、もう戻れない。――通り雨は珈琲の香り/笹
 さして面白くもない、どこにでもあるただ僕が彼女を好きだった話。誰にでもありそうな、好きな子を見つめて、偶然に運命を感じて。それでも僕にとっては特別な話。――傘の中の、僕の世界/瓜

日本画家kazuhoによるフルカラー水彩イラスト3点収録
雨の日に寄り添う一冊に仕上がっています。お手に取っていただけますと幸いです。

chapter4
-氷雨-
夜が更けても雨は降り続いた。目が覚めて、というよりは眠れなくて一舞は廊下へ出た。隣で寝ているはずの京がいないのをさして不思議にも思わなかった。浅い眠りのうちに荷物をまとめたのだろうか、それとも改めて取りに来るのか、届けるか……。
りんっと涼やかな鈴の音とともに、京の連れ帰った黒猫が角を飛び出してきた。この猫も京に届けるべきなのだろうか。一舞は京がしたように猫を抱き上げようとした。が、猫は嫌がり、一舞の手から逃げて行った。ふと、袖を見ると、べっとりと黒いものが付いている。よく見ると、暗い廊下にも点々と猫の足形に黒い跡が続いている。


雨の日、かなしいけれど、寂しくはない
雨の日は退屈だ。
窓の外を見ると灰色の世界にはしっかりと斜線が引かれてあって、
誰と約束したわけでもない外出の予定を、
すとんと切り落とすように自分の中でだけキャンセルする。
湿気がむわっと立ち上る畳敷きの部屋、
冷蔵庫から取り出した麦茶をグラスに注ぎ、
汗をかかせて。
さあ、何をしよう?
本でも読もうかな。
横着にも寝転んだまま、本棚に手を伸ばす。

コハク燈「小夜時雨」は、そんなときに読みたい小説だ。
手持ち無沙汰な雨の日に、寄り添ってくれる一冊だ。

短編集である。
瓜越古真/笹波ことみのふたりが、
それぞれ「二人傘」「傘の中の、僕の世界」/「海の戯れ」「通り雨は珈琲の香り」と、
二篇ずつ雨に関する短編を掲載している。
決して特別なことなど起こらない、
ただしとしとと降り続く雨のように、寂しい物語ばかりだ。
悲恋が多いかもしれない。
そうだ、雨の日に感じる音やリズム、匂い、目に映る色合いは、失恋のそれだ。

「海の戯れ」だけは、雨があまり主張していない。
その代わりに、海が出てくる。
イルカと少女の、やはり悲恋の物語だ。
雨の向こうの世界は、海に繋がっている。
雨の日の、ずっしりと沈み込むような重い湿気は、まるで海の底にいるかのようだ。
いきぐるしいイルカと少女の物語は、最後、
「少女が海にかわる」ことで終結を迎える。
まるで息継ぎのように、ラストシーンのイルカが幸せそうであったのが印象的だった。
イルカは言った。

「悲しかったけど、寂しくはなかった」

そういうふうに、雨の日を愛せたらいい。
少女が海なら、雨もまた少女なのかもしれない。
雨に包まれる時間を、幸せに感じさせてくれる一冊だ。
推薦者あまぶん公式推薦文



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