出店者名 ぽよよんドリーム
タイトル 神々の夜明け〜北欧神話〜
著者 ぷよつー
価格 200円
ジャンル ファンタジー
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紹介文
北欧神話を読んだことがない人でも楽しめるように書きました。
pixivで公開しているものに加筆修正+挿絵なので100円です。

ヘビの毒を夫ロキのために皿で受け続ける妻シギュン。
邪神が羽ばたく時、彼女は言う。「ヘルでお待ちしております」と。
ラグナロク、神々の黄昏が夜明けに変わるとき、新しき世界が始まる。

1.最終章への序曲

女はじっと動かない。
 最愛の男に毒の汁が滴らぬよう、ずっと器を彼の頭上に掲げている。
「何故あの方を殺したのですか?」
 珍しく、女が彼に問いかけてきた。
 男はにやりと笑い、俯いた。
「何故全てに愛されるはずのあの方を殺したのですか?」
 これは、珍しいことだった。
 彼に対して全て従順な妻である彼女が再度問いかけてきたのだ。彼はくっと口角を上げると、彼の頭上にある彼女の顔を見上げた。
「だから、さ。それに、僕が殺したんじゃない」
「それでも、最後は老婆に化けて、甦ることを止めたではありませんか」
「おやおや、奇なることを言う。僕が老婆に化けた証拠があるのかい?」
「ヘルはあなたの娘ではありませんか」
 彼女の口から、娘の名が出るとは思わなかったので、彼は一瞬固まってしまった。その隙に、彼女は毒で一杯になった器を彼の頭上からどけ、捨てる。
「――――!!!」
 彼女にとって他意はない。
 何故なら、彼女は彼に対して全て従順なる妻だから。それでも、身体に走る激痛は収まるはずはない。彼は苦痛に顔を歪め、彼女の顔を見上げた。空には、うっすらと月が出始めている。
「何故――」


アングルボダとの間に子を成したのですか?


 彼女と月が重なった。
「……何故バルドルを殺したか、教えてやろうか」
 彼女の無表情な瞳に、ほんの少しだけ光が走った。
「僕は、邪神だ」
毒の激痛が、ロキを貫く。
「邪神は神々が苦しみと嫉妬に塗れるのを望んだのさ」
「そのせいで、私達の娘は狼にされ、息子はあなたを縛る綱にされたというのに……?」
「僕は、全てが壊れる様が見たいんだよ。しょせん、僕は巨人族なんだ」
「ファウルバティの血が、それを望んだの……?」
「いいや、僕は巨人族でありながら神族。それ故邪神ロキなんだよ」
ロキの美しい顔が、邪悪に歪む。
「バルドルは光の神、僕とは決して相容れぬ存在……彼の死は、神々の憎しみを見事引き起こしたのさ!」
 それを聞くと、彼女は器を再び彼の頭上に戻し、毒を受け止めるのだった。
「……あなたは、全てを求めすぎる……」
 すると、彼はニヤリと笑うのだった。
「だから、僕には君がお似合いなのさ。そうだろう? 最愛の妻、シギュンよ」
 彼女はずっと彼の傍にいる。
 ラグナロク、その時までは――――