出店者名 夢想甲殻類
タイトル cigar(前編)
著者 木村凌和
価格 200円
ジャンル ファンタジー
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紹介文
 禿頭の大男・メイズは復讐の旅をしている。一族を殺した女・榊 麻耶を殺すためだ。
 彼は旅の途中で日本人の少女・桜花と出会った。無表情で和服で長刀を抱えている少女もまた、榊 麻耶を探しているという。
 二人の旅に、期限付きである父娘も加わり、彼ら四人はついに仇敵との再会を果たす。
 現代ファンタジーアクション。駆け引きもあります!


 前後編の前編です。
 後編を今回のあまぶんで発行します。
おっさん×少女アンソロジー『掌を繋いで』『歩みを寄せて』、テキレボ4公式アンソロ『和』『嘘』寄稿作のまとめ本。

 紫煙を咎める小言に辟易している。耳の中へ埋もれてしまいそうなイヤホンを引っこ抜いて通信機ごと粉々に砕いてしまいたい。
 だがしなかった。見下ろす眼下に、待っていたものが現れたのだ。
 ああ、見つけたぞ。通信機の向こうに適当な返事を投げておく。まだ半分残っていた煙草を下へ、行く先へ投げ捨てた。暗い夜道、小さな火花の飛んでいくさまに、メイズは口角を上げる。あれだけ苦しみながら、いまだ同じ形をするものを口にせずにはいられないなどと。
 助走をつけ、足場のへりを足先で掴み蹴った。坂ばかりの小さな町。建物の列の、ひとつふたつ向こうはぼんやりとオレンジ色が瞬いている。眼下は灯りのひとつもない――投げ捨てた煙草の火を追い抜いて、駆けていた少年の前へ降り立った。
 ひとにらみするだけで、少年は足を止めたまま動かない。ひゅう、彼の吸い込む息の音と、煙草の落ちる、ぽとり。その火を踏んで、少年の首根っこを掴もうと腕を伸ばす、さなか、少年の胸が血を吹いた。斜めに分断された身体は掴めず、メイズは煙草を踏み抜いて、半身と、片腕の拳を少年の向こう側へたたき込む。
 拳は硬い物に当たった。細く、硬いもの。だが手応えはない。威力を吸われている、いや、踏ん張られている。もう一方の足を引いた。この道は狭すぎる。踵は壁を擦った。
 押し込んだところで一度耐えられている。押し切ることはできない。拳を引き、上半身を引く。地面を蹴る足音が響いた。軽い音だ。あの拳を耐えるには重さの足りない軽さ。
 おかしい。思うものの、思案するより先に夜闇の中を煌めく一筋がある。長物の刃か、しかし身体は退けない。踵の触れた壁を蹴る。イヤホンをむしり取り、掌よりは大きさのある通信機を投げ、あたりをつけた剣筋を避ける。
 がっ、通信機は壁でも地面でもないものに当たったらしい。呑まれる息の音。だが剣筋は胸を斜めに掠めた。ばらり、鼻先を煙草の欠片が飛び散っていく。ただの、少し湿気った紙と粉。痛みはあるが致命傷ではない。建物の深い陰の中で、やっと捉えた人影に今度こそ拳をたたき込む。近くなって、この影が、あの少年よりも小さいことに気付いた。

(第二話「異国の少女」より)


おっさんと少女と、父と娘の交差する群像劇
現代、海の向こうのどこかで生まれ育ち、そして一人の女性に家族を奪われた男、メイズ。
そのメイズの復讐の道中に、子猫のように紛れ込んだのは一人の少女、桜花。彼女は和装のまま身の丈に合わぬ日本刀を振り回す規格外の少女です。
おっさんと少女は、同じ人物を追うという共通点から行動を共にします。そしてまた同じ人物をに追われる父娘、流風と環に出会い、奇妙な協力関係を築いていきます。

本作の魅力は外連味あふれる少女、桜花の大立ち回りだったり、その不器用な感情表現であり、それに振り回されるおっさんことメイズの歩み寄りの奮闘でしょう。
はじめは桜花を厄介としながらも、彼女の乏しい表情や仕草からその意思を読み取ろうとするメイズの努力や、徐々に慣れて読み取れるようになっていく様子がとてもほっこりしました。

殺伐とした物語の中にも、所々桜花や環の見せるあどけなさが肩の力を抜いてくれたりもして、そんな少女たちが過酷な運命に巻き込まれていく様がまた物語から目を離せなくしてしまう力を持っています。

食えない搦め手の使い手である流風と、子供らしく素直なようでどこか本心の見えない環。彼らの活躍も見所です。
流風はメイズを、環は桜花を翻弄しながら少しずつ変えていく。異なる物語を生きる二人と二人が相互に交差するその瞬間は、群像劇好きとしてはとてもたまりません。

流風と環、そして環の母親の物語は同作者様の『風まかせ』につづられています。
この本単品でもきっと楽しめますが、合わせてこの『風まかせ』を読めば、流風と環が抱える事情や想いをもっと深く知ることができるかもしれません。桜花が追い、メイズの仇である存在のことも。
そして是非、それぞれが確かな物語を持つこの群像劇の世界に深く浸っていただければ幸いです。
推薦者夕凪悠弥

おっさんは文体で少女を抱く
テキストレボリューションズ(テキレボ)というイベントがある。
あまぶんと同じテキスト系の同人誌即売会で、
毎年2回東京の浅草で開催されている。
テキレボの特長は、企画の多さだ。
BL企画に少女小説企画、長編企画、鳥小説企画など、
それも参加者有志で多くの企画が発案・実施され、
あたかも“小説の文化祭”さながら会場を賑わわせている。

「おっさん×少女」もそこで行われた企画のうちのひとつだった。
本作「cigar(前編)」は、その「おっさん×少女」の流れを汲む作品である。
さて、「おっさん×少女」企画、
おっさんと少女を組み合わせて小説を書こうという主旨ではあるが、
言葉を濁さずにいうと幾分「いやらしい」期待が
寄稿される小説に預けられていただろうということは、
賢明な読者なら予想いただけることだと思う。
そんなことを半分考えながら、本作「cigar(前編)」を開くことになる。
著者である夢想甲殻類・木村は、
どのように本作を「おっさん×少女」企画の”主旨”にそぐうものに足らしめたのであろうかと。

「cigar(前編)」の主人公としてはふたり登場する。
“おっさん”メイズと、“少女”桜花だ
(ここで、おっさんが外国人、少女が日本人であるというところに、
夢想甲殻類・木村のサービス精神を感じていただきたい)。
物語はメイズと桜花それぞれの視点で進行するのであるが、
夢想甲殻類・木村はここでだらだらとストーリーに筆を割いたりはしない。
物語は、小気味のいい文体でのみ進行する。
特に見ものなのが戦闘シーンである。
切れ味のよい短い文章でテンポよく描写される戦闘シーンは、
眼前でそれがまさに起こっているかのようなスリルとリアリティを与えてくれる。

またストーリーで描かれていないぶん、
その裏にある「メイズと桜花の物語」を期待してしまう。
あえて描かれていないものなんて……古今東西いかがわしいことばかりじゃないか。
例えばこの小説の文体に見てとれるようなテンポで、リズムで、拙速に、大胆に、
おっさんは少女を抱いたかもしれない。
それは事実ではない。想像にしてもアナザーすぎる。
それが妄想と呼ばれるものだとしても、
妄想を与えてくれる小説こそ良作だということは信じて疑わない。
推薦者あまぶん公式推薦文



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