出店者名 五条ダン
タイトル 現代的非実在【創作怪異】物語
著者 五条ダン
価格 500円
ジャンル 掌編
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紹介文
《生の指針》を探すための物語

掌編・短編・随筆・短歌・断章・詩(計20篇 118頁)

総文字数 61,786字、四百字換算 約155枚

 ピンクのゾウが飛んでいるので絶望的だと思った。残された時間は少ない。
 学校の帰り、友人とサーティーワンに寄ってアイスクリームを食べていた。友人は抹茶が、私はベリーベリーストロベリーがお気に入りだった。
「ねぇ、好きなアイスが、その人にとっての理想の恋の味なんだって」
 他愛のない会話をしていたはずだったのに。抹茶味の恋愛とはどのようなものなのかについて、これから盛り上がるところだったのに。
 台無しだ。店から出た私たちを待ち受けていたのが、ピンクのゾウだったからだ。
 呆然と立ち尽くしている。ふと横を見る。
 友人の、肩まで伸ばした長い黒髪から覗くその瞳は、怯えよりもあきらめのようなものが混じっていた。
「もうすぐ、鐘が鳴るね」
 友人が消え入るような声で言った。まるで幽霊が成仏する寸前のような。私はそんな言葉を聞きたくなかった。
 ぎゅっと彼女の手を握る。二度と離すものか。
 遠くの空で、ピンクのゾウが雲から雲へ跳ね回っている。ゾウはときどき鼻を竹とんぼのように回転させて、くるくると宙返りを披露してはニタニタと笑う。ゾウは空を跳ねたり回ったりしながらもこちらへ近づいてくる。今は一匹だけだが、やがて大群になるだろう。嫌な予感がした。
(じきに本降りになる)
「逃げよう」
 私は友人の手を強く握り締め、駈け出した。友人は息を切らせながらも引っ張られてついてくる。
「ムリ、どうせ間に合わないよ」
 彼女の言葉を無視して、ひたすら丘の上を目指した。じきに鐘がなる。セカイの内側でしか存在できない私たちは、多分消える。でもセカイに投げ込まれたときから私たちは、不条理さと戦わなければならないのだった。それが生きるということだから。
「きゃっ」
 友人が短く叫んだ。振り返ってみると、すでに無数のゾウが眼前の空へと広がっていた。ゾウは雲を食べ過ぎたのか、ゴム風船のようにパンパンに膨れている。ゾウの真っ赤なお腹がゴロゴロと鳴り出した。ゲリラ象雨にならなければいいけど。
「もう終わりだよ。こんなことなら死ぬ前に大納言小豆味も食べておけば良かった」
 友人はさめざめと泣いているようだった。私は最後の晩餐に食べるなら大納言小豆よりもラムレーズンのアイスが良かった。


書きたいから生きる
表紙が示すとおりの作品です。
暗い空、容赦なく降ってくる雨、そこへさされた傘。

人生晴れたり曇ったり、とはよく聞く言葉ですが
予期せぬ雨が降ってきたとき、どうするか。
どんな傘をさしますか、傘を支える芯は何ですか。

傘の描写は無いのですが、
(その一方で、ナメクジ、というワードはよく出てきます)
それでも傘を思わせるような作品でした。

いろんな視点から書かれているけれど、その芯は一本、貫かれています。
降り注ぐ雨から作者の身を守ってくれたもの、それは執筆なんだと私は思いました。
読者を選ぶような作品かもしれません、でも、心の声が描かれてあるので、心に響くものがあります。

とても読みやすい文章なので、その分印象に残りやすいのは、間違いないです。
たとえば、波打ち際に打ち上げられたクラゲを見たときに、本作を思い出しました。
推薦者新島みのる



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