出店者名 夜間飛行惑星
タイトル ノスタルジア
著者 実駒
価格 500円
ジャンル JUNE
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紹介文
ややBL成分多め
■BL俳句 72句
■百合俳句 8句
■BL短歌 15首
■短編小説(再録)
臨月(初出:2013年性別越境アンソロジー「兼ネル」寄稿)
きぬぎぬの金魚(初出:2015年BL俳句誌「庫内灯」寄稿)
黒い樹(初出:2015年 友だちの一次創作を二次創作するアンソロジー「#チェンジリング」寄稿)
ぼくの犬が死んだ。(初出:2007年 vostok発行 スプートニク2 50周年記念本「Я Собаkа/私の犬」寄稿)
まぼろしの塔(初出:2002年発行個人誌)

 ぼくの犬が死んだ。


 夜更けの訪問者は幼なじみの史朗(しろう)だった。その年最初の木枯らしが観測された、ひときわ寒い日のことだ。
 こんな時間にどうしたとインターホン越しに尋ねた僕に、史朗は沈黙で応えた。洟をすする気配がかすかに伝わってくる。
 僕は玄関を開けて表へ出た。冬の入り口の夜気は、いっそ清々しいほど冷たく澄んでいる。闇に目が慣れると、門扉の前に突っ立っている史朗の姿が見えた。
 砂利を踏む音で僕が近づいてゆくのに気づいたのだろう、史朗が顔を上げた。両腕に何か四角いものを抱えている。
「往野(おうの)――」
 僕を見上げた史朗の表情はうつろだった。
「どうした?」
 僕の問いに史朗はうつむき、抱えていた段ボール箱を傾けて中身を見せようとした。何気なく覗き込んだ僕は、予想もしなかった答えに息を呑む。
「クロが死んだ」
 箱の中には、夜そのものみたいに真っ黒な犬が目を閉じて横たわっていた。

 クロは、小学校二年生のときこの町に引っ越してきた僕の最初の友だちだった。慣れない通学路の途中、道を間違えて迷い込んだ通りにある一軒の家で、僕はクロと出会ったのだ。
 クロはとても人懐こい犬で、濃茶色の瞳を輝かせ小さな尻尾をちぎれんばかりに振りながら、頭を撫でてやろうと柵越しに手を伸ばした僕の掌を舐めてきた。
 学年に二クラスしかない小学校は兄弟のように育ってきた子らばかりで、地元言葉も使えない僕はなかなかクラスメイトたちと馴染めずにいた。朝夕、ちょっぴり回り道をしてクロと遊んでゆくのが、僕のひそかな楽しみになった。


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俳句サンプル
https://twitter.com/mikoma_nfp/status/877953759044747264


喪失からはじまる「永遠」について
スノードームに降る雪を見上げているような、まばゆい煌めきに包まれた言葉たちで綴られる短歌・俳句と掌編小説

「わたし」と「あなた」の間で澱のように揺らめく名づけ得ない感情のひとつひとつ、綺麗なだけではない、危うく鋭い、鋭利な刃物のような研ぎ澄まされた感情のひとつひとつが閉じ込められた物語。
ここでつづられる「異性愛」ではない、さまざまな愛の形のあり方はJUNEという形で括られるに相応しいものなのかな、と感じました。
噂の「大惨事」黒い樹の子どもじみた横暴さや執着の残酷さを照らし出す筆致、感情の奥に眠るものを精緻な筆致がありありと照らし出す文章は冷たくて鋭く的確に読み手を捉えてくるよう。
兄が子を授かる「臨月」での猫の死、「僕の犬が死んだ」での愛犬クロの死など、全編を通して喪失とそこからまた新たに生まれゆく新たな感情にまなざしを向けられているのかな、というのが印象に残りました。
「まぼろしの塔」の出会うはずのなかったのに同じ場所から世界の果てを見つめていたふたりはビルディングラブでロマンスだと思います。屋上から見渡せた世界と、その喪失の儚さ。「大人になるってどういうこと?」という少年の届くことのなかった言葉が胸にしん、と突き刺さりました。
永遠に閉じ込めることは出来ないけれど忘れたくはなかった。そんな風にしていくつもの夏を通り過ぎていった「いつかの誰かの追憶」のような肌触りにしん、と染み入るような心地になりました。

冬銀河だれのためでもない光
(Doppelgänger)

光とは君にまつわることすべて四月の風に吹かれる産毛
(いわゆる青春)

好きな言葉がたくさんありましたがこの二句が好きです。
取り戻せないこと、を胸にただ過ぎてゆく時を、それでも歩こうとする背が見えるようで、凛としたたたずまいはとても優しい。
※実駒さん曰く共依存DVカップルの別れを描いたという「いわゆる青春」のやるせない美しさについてわたしと小一時間語り合ってくださる方を募集しております。笑

読み終えた後に胸をよぎるのは、「喪った」ことに気づいたことで手に入れた永遠もあるんじゃないかな、という思い。
あわいきらめきに包み込まれるような一冊でした。
推薦者高梨來

JUNE BRIDE
いつか「あまぶん」を6月に開催する機会があれば、
「JUNE BRIDE」というサブタイトルをつけてやってみたい気持ちがちょっとある。
もちろん「あまぶん」は「JUNE」ジャンルだけのイベントではないし、
私個人のイベントでもないから実現はしないのだろうけども。
6月はジャンルとしての「JUNE」を想起させるほど、美しい季節である。
多少湿気てはいるけども、それも寂しさの表現だ。
私の台湾人の友人に「JUNE」という子がいた。
彼女も美しい女性で、六月の中国語読みで「リョウユエ(liuyue)」と呼ばれていた。
もちろん、リョウユエは腐女子であった。

とにかく「あまぶん」には良質の「JUNE」が多い。
「あまぶん」では「JUNE」を「異性愛ではないもの」と定義しているのだが、
各出店者・各作家がそれを個々に解釈し、吟味して、
それぞれに自信の持てる「異性愛ではないもの」を出してきているように思える。
夜間飛行惑星(美しい出店者名!)から頒布される「ノスタルジア」も、
そういうJUNEのうちのひとつだった。

俳句・小説・短歌が交互に楽しめる、とてもおいしい書籍である。
いずれにもそれぞれの魅力があり、
読者の好みを刺激してやまないのであるが、
特にここでは短詩(俳句・短歌)に注目したい。
面白いのは、それぞれにテーマが与えられている点だ。
バレンタイン・村を焼く・明日、世界が終わる・ノスタルジアなど、
見るからに魅力的な食材がテーマとしてでんと並べられ、
それが実駒さんによって、さまざまな歌や句として料理される。
作品が料理なら、組版は盛り付けみたいなものだ。
余裕をもって美しく繊細に設定された組版により、
料理としての作品はいっそうこの効果を増す。
私はこの書籍を読んで、おもしろい、よりも先に、おいしい、という感想を持った。

食卓というものは、「JUNE」において大切な要素のひとつらしい。
異性愛ではないもの、を交わした「JUNE BRIDE」たちが最初に食べる食事も、
やはりこの「ノスタルジア」のように、おいしく、多少ものがなしいものなのだろうか。
そんなことをノスタルジックに想像させてくれるような一冊だった。
推薦者あまぶん公式推薦文



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