出店者名 つばめ綺譚社
タイトル ウーパールーパーに関する考察
著者 伴美砂都
価格 500円(上下巻セット・分売不可)
ジャンル 大衆小説
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紹介文
高校生のゆきは、図書館の薄暗い待合室にいるウーパールーパーを心の支えにしていた。
ある日、図書館の職員、麻生さんに駅で具合が悪くなったところを助けられてから、ゆきの日々に少しずつ変化が訪れ始める。
戸惑いながらゆっくりと自分自身や周囲を見つめていく、少女の成長物語。

 ウーパールーパー。学名、Ambystoma mexicanum。和名、メキシコサラマンダー。名の通りメキシコ原産の、両生類、実は絶滅危惧種。日本では一九八〇年代に某インスタント食品のテレビコマーシャルに登場して一躍有名になり、その後も細々と、一部の水生生物マニアの中で愛されているとかなんとか。 
 知る人ぞ知るのかどうかわからないけれど、ウーパールーパーは大きく分けて五色いる。リューシスティック、アルビノ、ブラック、マーブル、ゴールデン。彼らのなかで一番有名なのは、皮膚はピンクに近い白色で目が黒の、リューシスティックという種類。顔の横にもさもさと生えているのは毛でも飾りでもなく酸素を取り込む器官、いわゆるエラ。ふにふにした柔らかそうな、少し皺の寄った頼りない皮膚に、腕力のなさそうな手足、何を考えているかわからない、つぶらな黒目だけの目玉。素人目には性別もわからないけど、どこか少年ぽい、口角がちょっと上がったように見える口もと。子供のようにも、老人のようにもみえる、不思議な生物。

 週末になると、図書館へ行く。自宅から歩いて十五分。図書館は煉瓦造りで、道路に面した駐車場の脇、四角く剪定された木の茂みの横を入り口まで少し歩く。自動扉とその周りの壁は一面マジックミラー、外側から見ると鏡張りになっていて、少し広くスペースが取ってあるので、部活動か友達同士なのか、そこに自分たちの姿を映して、ダンスの練習をしている光景がよく見られる。その隣を通り抜けて、自動ドアが開くまで、マジックミラーに映る私の姿はいつも、やけに頼りなくみえる。痩せているといえば聞こえは良いけれど、Tシャツの袖から出ている二の腕もスカートの裾から覗くふくらはぎも、ひょろんとして柔らかさも硬度も足りない、どっちつかずの身体。肩に掛けた鞄の、本の重さに負けてる。