出店者名 午前三時の音楽
タイトル 春、間近 ほどけない体温2
著者 高梨 來
価格 400円
ジャンル JUNE
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紹介文
創作BL│ 文庫│ 122頁 │ 500円 │ R18 │ 16/09/18
ここにいる、どこにもいかない、こんなにもそばにいる

「ほどけない体温」後日談。
忍の帰省によるほんの僅かな別離のひと時と再会、そこから始まるふたりの新しい一年。(「おかえりなさい」)
大学卒業後、就職を控えた周の"最後"の春休み。互いを思いあいながらも、周の後悔とわだかまりは消えない――(「春、間近」) いままでとこれからを想いながらたがいの気持ちを確かめ合い、新しい季節へと向かおうとするふたりのお話。

ぶっちゃけひたすらイチャイチャイチャイチャしまくるガッツリ目のR18描写ありな一冊です。大丈夫そうな人は宜しくお願い致します。

→長めの試し読み http://lovelylic.ivory.ne.jp/3am/sample/spring.html

「……忍」
 寝起きのざらついた声に苦笑いでも漏らしたくなっていれば、同じくらいの、やすりをかけわすれた木肌みたいな少し焼け付いた声で、「おはよう」とそう声をかけられる。
「――あまね」
 いつになく頼りない響きでつぶやきながら、すり、と寝起きの少し体温の高い身体をすり寄せられる。
「さっきねえ、夢見てたの。周の夢。夢ん中でもいっしょで、起きても周いるじゃん。なんかさぁ、おかしいなって思って」
 少しだけ寝ぼけたような様子のまま、熱を帯びた指先はまるで暗がりの中でこちらの輪郭をたどるかのようなおぼつかない手つきで、さわさわと頬や耳のあたりをなぞる。
「周がさ、初めて泊まっていいって言ってくれた日があったじゃん? そん時の夢でさぁ」
 なにかを探し求めるように、しなやかな指先でするりと髪をかきあげる仕草とともに、続けざまに言葉が紡がれる。
「周、すごい緊張してて。かわいいなーって思ってたけど、ほんとはちょっとだけ心配だったんだよね。朝起きて、周いなかったらどうしよって。でも周、ちゃんといてくれたじゃん。ぱちって目があいて、したら、なんかちょっと不機嫌そうにして、でもちゃんと俺のこと見てくれてる周がいて。夢かな? どうしよって思いながら『おはよ』って言ったらちゃんと、おはようって返してくれた」
 笑いかけながら答えてくれるその瞳の奥で、揺らぐ光が、僅かににじむ。
「なんかね、いま起きて。あれってなったんだよね。どっちなのかわかんなくて、あれって。でも、ちゃんと周だった。きのうちゃんと『おかえり』って言ってくれて、一緒にいていいって言ってくれた周だって、ちゃんとすぐわかった。だからだいじょぶなんだって思ったら、なんかすごい安心して」
 笑いながら髪を梳く指先がほんの僅かに震わされていることに、いまさらのように気づかされる。
「……ごめん」
 振り絞るように、そう答える。吐き出した吐息はたちまちに胸の奥で滲んで、ぎゅうぎゅうと心ごと締め付ける。
「……なんで謝んの?」
 僅かに輪郭のふちを歪ませた言葉をまえに、答える代わりのようにそっと髪をなぞりあげ、少しだけ汗ばんだ額にそっと口づける。
 後戻りなんて出来ないことを知っている。いまここにいてくれる、それが答えで、すべてだなんてことだって。だからこそこんなにも苦しい。こんなにもあたたかい。


二人で過ごしてきたからこその甘い日常
大好きなBL「ほどけない体温」の続編、しかもえろいと聞いて体調を万全にして読みました。
前作から引き続いてエロい才能を発揮し続ける受け・忍はもちろん魅力的なのですが、なにより周ですよ!
どんどん攻めらしさを増してくる周はほんとうにかっこいい(ゴムの封を口で切ったりする!)し、その変化が忍と過ごすことでもたらされたのだと思うとときめきます。

來さんのご本は、日常の描写を楽しみに読んでいて。
細かいところですが、周が気づいてなかったスーパーのレシピカード見つけてくる忍に尊さを感じました。
私見なんですけど、忍は周の近くにあっても気づいてなかった幸せをフットワーク軽くいっぱい見つけてきてくれそうだなと思っています。(前作でも近所のおいしいパン屋を見つけてきていたような)

前作「ほどけない体温」とあわせての購入がおすすめです。
忍と周とたくさん苦悩したあとは、甘々な後日談を堪能しましょう!
推薦者まゆみ亜紀