出店者名 人生は緑色
タイトル 調律師
著者 小高まあな
価格 500円
ジャンル ライトノベル
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紹介文
A5(2段組み)/252P

「あたしはいつか、あなたのことも忘れるわ」
「例え沙耶が俺を忘れても、俺は沙耶を忘れない」

例えば、ピアノのように環境を調律する。 人と人ならざるものの間を調律する「調律師」。
こっくりさんに憑かれた高校生・龍一は、助けてくれた調律師の女性・沙耶に一目惚れをする。しかし、沙耶は頑なに龍一と距離を取ろうとする。
沙耶には生まれつき「黒龍」が憑いていて、それを鎮めるためには彼女の記憶が代償となることに起因する。
いつか失われるかもしれない記憶や今まで知らなかった怪異の存在に振り回される龍一。
さらにそこに、沙耶たちの同業者である龍一のクラスメイト、龍一に惚れた片思い娘、沙耶の兄代わり、沙耶の元カレなど人間関係が入り乱れる。

普通ではない世界に足をつっこんだ、普通の高校生の、普通の恋の結末は?

現代オカルト恋愛ファンタジー

Cherry blossoms say \\\"Hello\\\"

 その桜は、あたしみたいだと思った。

周りの梅が咲き出して、焦って咲いてしまったその桜は、まるであたしみたいだった。
 桜の幹に手を置くとそっと呟いた。
「貴方は桜、よ。まだ、春を待っていていいのよ。
ねぇ、もう一度、おやすみなさい」
 ゆっくりと、再び時がくるのを待つために、休養する桜を見ながら、思う。

 その桜はまるであたしみたいだけれども、


 ――あたしは桜と違って何度も花を咲かせることは無い。


第一章 ボーイ・ミーツ・ウーマン

 夕暮れ時の教室。女子高生四人が机を囲んで座り、小声で声を揃え、唱える。
「こっくりさん、こっくりさん、鳥居を潜ってお越しください」
 グループの一人の今のマイブームがオカルトで、試してみることになった。ただそれだけのこと。

 こつこつ。
 廊下を歩いていた男子生徒は、二―四とプレートがある教室の前で足を止めた。課題があるというのにノートを忘れた自分のうかつさを悔やみ、半ば呪いながら、いつも通り扉を開けて
 ばっ!
 八つの瞳がいっせいに彼に向けられた。
「えっと? ごめん、もしかして、……入っちゃダメだった?」
 扉を開けた男子生徒は困惑を顔に浮かべ、ドアをあけた体勢のまま、女子四人をみる。
「榊原君……。……そういうわけではないけど」
 一人の子がそういって、やはり困ったように笑おうとして、
「え?」
 男子生徒から視線を手元の十円玉に移す。
「うごいて、る?」
 かたかた、と音を立てて十円玉が揺れている。
 押さえていた人差し指に軽い圧力を感じて、彼女は思わず手を離した。同じようにして、他の三人も手を離し、怖いものを見るかのように十円玉を見つめる。
 ゆっくりと、それは宙に浮かび始めた。
「もしもーし」
 廊下のほうからでは、窓際にいる彼女達の様子がよく見えないのか、男子生徒は幾分砕けた調子で声をかける。
「忘れ物とりに来ただけだから、すぐ帰るから」
 そういって、一歩教室に足を踏み入れたとき、その十円玉は狙いたがわず彼にめがけて飛んでいった。
「榊原君っ!」
「っ!」
 事態が理解できないながらも、反射的に彼は両腕を顔の前で庇うように組み、
 そして……、