出店者名 人生は緑色
タイトル 中曽根心中の心中
著者 小高まあな
価格 500円
ジャンル 恋愛
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紹介文
新書(2段組み)/130P/オンデマンド/500円

「私と恋仲になって、そして心中して」
中曽根心中(なかそねここな)は、心中したかった。
死にたいのではない、心中したかった。名前のとおりに。
ある日、ここなは、ホームレスの青年神野京介に一目惚れする。
心中相手、という意味で。
「衣食住は私が提供するわ。その代わり、私と恋仲になって。そして心中して」
「はぁ?」
こうして、ここなと京介の同居生活が始まる。
奇妙な同居生活の先で、中曽根心中が思うのは。





「私と恋仲になって、そして心中して?」
 ここなが微笑みながら告げると、
「はぁ?」
 目の前の男は、心底不可解そうな顔をした。

 ここなの通勤経路である地下道。そこにその男がいた。
 あまり人が通らないその地下道では、近所の小学生が授業で描いたという絵が、不気味な笑顔を壁一面に浮かべている。薄気味悪いけれども、その趣味の悪さが心地よくて、ここなは気に入っていた。
 そんな場所に突然現れた異物。その男は、ダンボールを地面に敷き、その上に面白くもなさそうに座っていた。荷物は小さな鞄が一つだけ。どう考えても、ただのホームレスのその人から、ここなは目が離せなくなった。
 ホームレスという言葉からここなが連想するよりもこぎれいで、若くて、何よりも整った顔立ちの男。一言で言うと、割とタイプの。
 立ち止まり、上から下まで眺める。
「おねーさん、こんな夜中に、こんな暗いところで、こんな怪しい人じっと見てるとか、危ないよ?」
 その男性は、ここなに向かって呆れたように言った。
 ひそめられた眉と、皮肉っぽく歪められた口元。
 自分のことなのに。自分のことをぽーんと突き放した言い方。
 その瞬間、この人以外、考えられなくなった。
 その日はそのまま立ち去ったけれども、ここなの心はあの日以来、あの男の元に置きっぱなしだ。

「おねーさん、襲われるってば」
 もう三日目になるやり取りに、男は呆れたように告げた。
 三日間、男は変わらずそこに座っていた。何かを諦めたように、何もせず。
「あなたに?」
 三日目、初めてその男に言葉を返す。
 男は、声が返って来たことに少しだけ意外そうな顔をして、
「いや、俺は襲わないけど。一般論として」
 もっと明るい道を通りなよ、なんて付け足した。
「あなたは、ここに住んでいるの?」
「住んでるっていうか、一時的な居住地?」
「これからも、ここにいるの?」
「ずっとかどうかは、わからないけど」
 地下道の灯が、かちかちと点滅する。
「ねぇ、それなら」
 ここなは微笑み、
「うちに住まない?」