出店者名 人生は緑色
タイトル 15/30(小高まあな作品集)
著者 小高まあな
価格 3000円
ジャンル ライトノベル
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紹介文
30年生きたうちの15年は創作サイトがありました。

そんなこんなで作品まとめたもの。
全集にするつもりでしたが、全部ははいらなかった。
とあるルールに則って作品をまとめています
500ページずつの上下巻で、計1000ページ

収録作
・呪詛裁判所にようこそ!
・引き立て役だなんて思ってないよ
・赤いアネモネ
・さよならアネモネ
・調律師
・ひとでなしの二人組
・Stray Cat
・ドッグディズ‥270
・中曽根心中の心中‥275
・さよなら、愛しき私の異形
・電話帳の三番目
・MIMIMI
・アイをこめる
・赤の女王様と椿姫と私
・永遠の友達
・甘味処 大和撫子
・ロー内恋愛 二十六歳の男
・私の魔法使い
・COCO

呪詛裁判所にようこそ!
            初出:二〇一一年十一月三日(コピー本)

受訴:訴訟を受理すること。
受訴裁判所:ある事件に関し、判決手続が将来係属すべき、あるいは現に係属する、またはかつて係属した裁判所。

呪詛:うらみに思う相手に災いが起こるように神仏に祈願すること。まじない。のろい。
                   広辞苑 第六版


「じゅそさいばんしょぉ?」
 円が怪訝そうな声を上げ、その隣に座った沙耶もまた、不思議そうに首を傾げた。
「そう」
 そんな二人の正面に座った直純は一つ頷くと、
「受ける訴え、と書いて受訴裁判所。受訴っていうのは、訴訟を受理する、受け付けること。で、ある事件に関し、判決手続を係属、つまり取り扱っている裁判所のこと。それが本来の法律用語」
 ここまではいい? と二人の方を見る。沙耶は眉をよせて真剣に考える顔をしていた。
「まあ、小学生には難しいよね。円は?」
「よくわかんないけど、法律の話なわけね? で?」
 とあっさりと言った。
「少しは考えるとかして欲しいんだけど、まあいいや」
 呆れたように直純は笑い、
「ここからが本題。裁判に至るまでにもつれた人間関係やらの怨念が、じゅそ裁判所という音にひっぱられ、怪異が多発しているんだ」
 オッケー? と尋ねると、今度は沙耶が何度か小刻みに頷いた。
「円は?」
「ん? 怨念がどうのってとこまではわかったけど、音にひっぱられてってどういうこと?」
「だから、本来の受訴と、呪いの方の呪詛って音が同じだろ? ケータイの変換も呪詛裁判所になるし」
 当たり前のように言う直純に、
「だぁかぁらぁー」
 苛立ったように円は机を爪でたたき、
「呪詛ってなによ」
 円が言った瞬間、直純は心底呆れたようにため息をつき、沙耶も沙耶で驚いたように隣に座る円を見上げた。
「え、なに?」
 二人の反応に驚いたような声をあげる円。
「あのさ」
 額に手を当てて、わざとらしくため息をついてみせながら直純は、
「仮にも、一応、とりあえず、一海の次期宗主なんだからさ。基本的な用語ぐらい覚えておこうよ」
「うるさいわねー」
 円は不満そうに唇を尖らせ、
「知識はあんたの担当、実践は私の担当って決めたでしょう?」
「だからって物には限度ってものがあるじゃん。まあいいけど。どうせ言っても無駄だろうし」
「無駄ってなによ」


1000ページぶんの幸せ
「15/30」というタイトルのこの本。

著者・小高まあなさんいわく「30年生きたうちの15年は創作サイトがあった」、
そちらに掲載された作品をまとめた作品集である。

この本について語るにあたり、まず触れなくてはならないのは、
「とにかく分量がスゴイ!」
ということ。

500ページある。
しかもそれが上下巻。
そのうえそれぞれ、2段に組まれているから、単純計算ならさらに倍だ。
文芸同人誌でここまで厚い本は見たことがない。
複数の筆者が参加する合同誌ならまだしも、個人誌ならなおさらだ。

どうして最初に分量について触れたのかというと、
きっとこの本を手に取った誰もがそういう第一印象を持つだろうというのがひとつ。
それともうひとつ、この圧倒的分量を読み終えたときの印象を伝えておきたかった。

その印象をごく簡単にいうなら「読みやすかったな」というものだった。
1000ページ読んだのに、ぜんぜん疲れてない。
とにかく読むことにストレスを感じなかった。
わりあい難解な表現や描写が少なく、文体が素直というのもその一因だろう。
それ以上に、読んでいて「どんどん次が楽しみになる」。

この作品の魅力は「世界」だと思う。
この1000ページは、ひとつの世界でできている。
19作の短中編で構成されているのだが、これらは全て同じ世界のなかの物語だ。

「調律師」の主人公・沙那と龍一が、
「ひとでなしの二人組」の主人公・マオと隆二が、
「中曽根心中」の主人公・ここなと京介が、
それぞれに物語を持ちながら、ときに出会い、ときに離れ、絡み合って進展する。
ひとつの「世界」をいろんな人の視点から見るのは楽しい。
時に辛いものを見て、悲しくもなる。
一緒に笑ったり、泣いたりできる。
それが小説のかけがえのない魅力のうちのひとつだったな、
ということに気づかせてくれる本だった。
そういう本に出会える人生を、幸せと呼んでもいいのかもしれない。
「人生は緑色」という出店者名を思い出して、そんなことを考えた。

この本に掲載されている作品はそれぞれ分冊されて頒布されているので、
どれか気に入った作品の本から買って読み始めるのもいいだろう。
でもできれば、この「15/30」を手に入れてみてほしい。
1000ページを読み終えたとき、きっと君は、少しだけ大切なことに気づく。
それを言葉にはしないが、ヒントは推薦文のなかに忍ばせた。
例えるなら、小説を読む理由みたいなものだ。
推薦者あまぶん公式推薦文

読みたいときに手元にある安心
読みたいときに読みたいものが手元にあるのは嬉しいことです。渇望が濡らされてしまう場合もあるでしょうが。
小高さんの小説を何冊か読んで次どれにしよう、何か読みたいけど一つ決めるのが難しいそして次に回して在庫なし再版なしになったらどうしよう、と思っていた時にこれが出ました。買うよね。どうせあれもこれも読むなら収納含めて手間も価格もコンパクトで私にはよい。おかげで買い逃しなく、今読みたいものを手元で探せて便利です。連作だったりあの時の登場人物は今! という作品がよい按配で並んでいます。著者オススメ(なのかどうかはちゃんと分かってるわけではないですが)で読めるのはよい。コンシェルジュ機能搭載ですよ。たぶん……。
軽快な筆致にテンポよく読んでいて、進展で涙腺を開かれる小高節が好きです。
鳥の方の作品に鳥が出てくるのを見つけてクスッとなるのも楽しみの一つかと思います。
ぜひ本棚にお迎えください。ほんとにお徳用ですからね、これ。
推薦者正岡紗季