出店者名 まんまる書房
タイトル V〜requiem〜
著者 ひざのうらはやお
価格 1000円
ジャンル ファンタジー
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紹介文
遠い未来――文明は退廃し、人類は迫りくる宇宙線と強靭な肉体を持つ生命体「ドラゴン」によって地球の奥深くへと追いやられてしまっていた。残された人類は、「ドラゴン」を倒すために、その遺伝子を身体に組み込むことによって圧倒的な戦闘能力を手に入れた兵士、通称「V」を作り出して苛烈に抵抗する。
白銀の鱗を持つ美しく強大なドラゴンと、彼女を討つことに囚われてしまった「V」が紡ぐ、世界の終末を描くフューチャーファンタジー。ひざのうらはやお史上最高とも呼ばれるその美しさと儚さをあなたに。

第4章「Agnus Dei」より(抜粋)


 墜ちていく。
 どす黒い海に向かって、僕は、墜ちている。どんな鱗でも突き通すはずの剣は、あの白銀の竜には傷をつけるだけだった。
 また、アヤノの無念を晴らせなかった。
 このまま死ぬのも、悪くないだろう。

 ふかふかとした感触。
 僕が目を覚ますと、一面の花が辺りに咲いていた。身体を持ち上げると、名も知らない花がゆらゆらと、風に揺れる。
「ハルカさん」
 鈴の鳴るような、どこかいたいけで、けれど澄んだ声が響く。
「アヤノ」
 僕は周りを見回すけれど、声の主は現れない。
 現れてもくれないのだろうか。
 彼女は僕に、遂に失望してしまったのだろうか。

 目の前が真っ暗になって、どこからともなく月明かりが差し込んできた。
 ここは、かつて東京詰所(トウキョウ・ステーション)だった場所。今となっては、ぽっかりと空いた空洞と無数の瓦礫だけがぽつんとあるだけだ。
 僕はいつものように、瓦礫を飛び越えてアヤノのもとへ向かう。
 深々と刺さっているその得物の前で、アヤノは出会ったときと同じように、背筋をしっかりと伸ばした、凛とした姿をしていた。
「アヤノ」
 僕は再び、彼女に声をかけた。
「ハルカさん」
 その紫色の瞳が、柔らかに動いた。弱い微笑みは、未だに記憶と同じままだ。
 僕は彼女に、なんと声をかけたらいいだろう。
 また、「零式」を倒せなかったと、不甲斐ない報告をしなくてはならないのだろうか。
「また、逃がしてしまったんですね」
 アヤノの小さな身体が歪む。あらゆるところに切り傷がみるみる現れ、あれよあれよという間に血塗れになっていく。
「いつになったら仇をとってくれるんですか」
 声が歪み、重みを増してのしかかってくる。淡々とした言葉に怒りを感じ取るのは、はたして、僕の勝手と言えるのだろうか。
「私の身体は、そんなに弱いのですか」
 アヤノの叱責は続く。感情は、とうの昔に喪ってしまっていた。
「違う」
「何が違うんですか!」
「僕は、強くなるために君の身体を使った訳じゃない」
 言い訳よりも言いたくない言葉を、僕は吐き出そうとしていた。
「やっぱり」
 のっぺりとした冷たい口調で、彼女は吐き捨てるように言った。
 その顔は、よく見ることができない。
 いや、そもそも僕は彼女の顔を本当に見たことがあるのか。

 アヤノの顔は、のっぺらぼうになっていた。


女性たちは愛するためにドラゴンを殺す
 とても悲しいドラゴン殺しのファンタジー。

 ドラゴンという存在について考えた。
ひとに何かを託され、ひとに想われ、そして最後は、ひとに殺される。
それはまるで――ひとそのものではないか、そんなふうにすら考えてしまう。
後半明かされるドラゴンの正体を楽しみに読んでほしい。
もちろんそれは、希望と呼べるものでは全くないけど。

 ドラゴンと戦う「V」という存在。
この作品のタイトルでもある。
「V」というイニシャルから何を想像するだろうか。
たいていのひとは「Victory」を予想するのではないか。
そうであれば、物語はハッピーエンドを迎えたかもしれない。
ヒントを挙げるならば、「V」は基本的には「女性」ばかりだ。
染色体上の都合で――と作中説明されてはいるけども、
ドラゴンを殺すのが女性ばかりという点は深読みせざるを得ない。
V――女性たちは、羽根を広げ、空を飛び、手にした武器を使ってドラゴンたちを殺す。
描かれるその姿は美しい。ときに、ドラゴンに殺される。その姿すら美しい。
女性たちはそれぞれにドラゴンと戦う理由がある。
それは生きる理由であり、死ぬ理由でもある。
ハルカ、セリナ、エレナ、オリガ、フミコ、それから、アヤノ。
誰もが戦う姿はどうしようもなく美しかった。
それはきっと、誰もがどうしようもなく誰かを愛していたから。

 誰もが愛することに殉じた女性たちのファンタジー。
殺されたのは、果たして本当にドラゴンだろうか。
ドラゴンがドラゴンになる前の姿を思うとき、ドラゴンになった理由を思うとき、
またそれも同じ女性の姿であったと、多少のネタバレを含みながら思う。

 ファンタジーに、ドラゴンや、女性の戦いや、やるせない愛憎を求める方には、
間違いなくお勧めできる一冊。
ひとつdisclaimerを追記するなら、
ファンタジー(幻想)と呼ぶには多分にリアリティを含んでいるかもしれない。
ドラゴンに幻想を求めている方には推奨できない。
本当はそういう人にこそ読んでほしいと、こっそり思いながら。
推薦者あまぶん公式推薦文



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