出店者名 猫春雨
タイトル 夏の火葬
著者 猫春雨
価格 100円
ジャンル ファンタジー
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紹介文
現実から想起されたファンタジーの短編集です。

■夏の火葬
 ぼくの家には一枚の絵が飾られていた。
 それには枯れたひまわりの群れが描かれている。
 夏休み終わりの写生大会で、町外れの森に出かけた時にぼくが描いたものだ。
 それが思いの外評価が高く、他校の体育館でしばらく飾られた。
 その後返って来て、ぼくの家でも誇らしげに額縁に収められているのだけれど、ぼくはあまりその絵のことが好きではなかった。
 なぜならば、枯れたひまわりの群れが死者の群れのように見えるから。

■ウチュウジン
 庭を背にした扇風機に当たっていると、ふいに庭が真っ白になったかと思いきや、次の瞬間には小さな人影が立っていた。
 目が慣れて来るとその小さな人影は裸で、銀色の肌をしているのが分かる。
 顔の半分以上を占める黒目だけの瞳はつり上がり、じっとこちらの様子をうかがっているようだった。

■航海
 病院の屋上が好きだ。
 閉鎖的な病棟から解放された気分になるし、洗い立てのシーツが並んでたなびいているのもいい。
 シーツは帆船に張られた白い帆だ。
 屋上のベンチに座っていると、自分は海の上に居るように思えて来るのだった。

■夏市
 お祭り? 昼間からかい?
 そう、厳密にはバザールは市場的なものだけど。
 けれど、美味しい果物もあるし、珍しいものも売っている。
 そんなの日本にあるわけないじゃないか。
 だから都市伝説だって言ったろ。
 うだるような夏の暑い日。
 陽炎が立ち上る日に、バザールはひっそりと現れるんだ。

■蛍人形
 蛍人形って知ってる?
 香澄ちゃんの言葉に、わたしは首を横に振った。
 そう……、蛍人形というのはね、紙で作られた小さな燈籠みたいなものなの。
 その中に、名前の由来である蛍を一匹入れてやる。
 すると蛍人形はぼんやりと光を灯すわけ。
 だけどそれだけで終わりじゃ無い。
 蛍を入れた人形は、魂が入れられたかのように命が芽生えるの。
 動けはしないけれど、お話しをすることは出来るわ。
 よく知っているねと言うと、香澄ちゃんは昔見たことがあるのよと、遠くに眼差しを向けた。