「砂」題詠

風緩む館山の春の砂浜で 友とふたりただ波を聴く

思い立ち砂を握りて手を開く 落つる砂の音は波に消されて

手の砂を払いしあとに振り向けば ただ名も知らぬ海草のみある

ふと見れば砂中に半ば埋もれたる 巻き貝の殻そっと手に取る

引き潮に取り残されたる貝の殻 滴る砂の虚しきことかな

       ■ 偲川遙

「旅と砂と日々」

育ちゆえ海に慣れないままだから砂から硝石ばかりを拾ふ

砂浜でサンダルに付いた微粒子を何処まで持ち帰れば旅だつた

光から家に帰れば平日の埃か砂か倦怠なのか

はてしないいつかの物語のなかの仄かに色づく砂丘の群れよ

大切な海の硝石をテーブルの隅に溜めれば砂粒残る

日常は箒を持たない人間が砂を掃きたい綺麗にしたい

それは夢それは現実だつたから口から砂を噎せながら吐く

家のなか視えない砂が掃き溜まり這ひ蹲る這ひ蹲つてゐる

砂に生まれ露に暮らした人生の終焉がまだ地平に見えず

水の音が遠く遠くにささやけく砂を捨てずに季節を過ごす

       ■ 泉由良